Chernobyl Medical Fund Newsletter (3)

 高校生の感受性の強さ、
その輝き

医師 橋本 すみれ

1月30日、私の卒業した東京学芸大学附属高等学校で菅谷先生がご講演をなさるということで、母校の訪問がてら拝聴に伺った。
菅谷先生のなさってきたことの詳細については、改めて述べる必要はないだろう。ただ、今回のご講演では、先生が5年間なさってきたことに加え、甲状腺がん検診のためにベラルーシを訪問した一昨年、昨年のお話が加わり、実際に同行させていただいた者として非常に懐かしい思いがした。また、現地の人々の温かい笑顔の裏に隠された、今も続くあの事故の影響、悲惨さを改めて考えなおすことになった。
しかし、この講演会で何よりも感じたのは、高校生の感受性の強さであり、その輝きであった。講演会の後30名ほどの高校生が先生ともっとお話ししたいということで、会議室に集まった。皆興奮さめやらぬ顔で、次々と口を開く。「彼らのために、日本にいる私たちには一体何ができるのですか?」「私は工学に興味があるのですが、医学以外に彼らに貢献できる方法はありますか?」「実際のところ、行くことに恐怖は無かったのですか?」先生は彼らと同じ目の高さにすわり、各々がまっすぐにぶつける感想や質問などに、時にユーモアを交えながら丁寧に答えられた。彼らの菅谷先生を食い入るように見つめる瞳が印象に残った。
先生はよく、子供たち・若者達という言葉を使って、若い世代にメッセージを伝えたいとおっしゃる。私自身は「今時の若者は」といえるほどの歳ではないが、高校生達がまぶしいくらいまっすぐに、菅谷先生のメッセージを受け取り、たくさんのことを感じ、話しているのを傍から見ていて、日本の未来は明るい!!と根拠もなく嬉しくなってしまった。私も不安はたくさんあるが、大学時代を経て、それなりに自分の考え方も固まってきて、他人の話を聞いても、じゃあ自分はどう生きたらいいんだろう、と、根底をゆるがされるようなものの感じ方は、気がつけばもうしなくなった。悩んだり、苦しんだり、もがいたり、それは10代の特権なのだなと思う。
先生が帰られた後、私は母校に1人残り、数人とゆっくりお話しし、じかに彼らの言葉に触れる時間を持つことが出来た。
ずっと、涙が止まらない女生徒がいた。いっぱいになった気持ちがあふれ出るように、いろいろなことを話してくれた。「医者になって、菅谷先生のように苦しんでいる人を助けたいんです」「でも、植物にも興味があって、それなら砂漠の緑化に役立ちたい」「だけど今、何をどうしたらいいのかわからない」。悩んでいる本人は本当に大変だと思うが、将来のことを考えるときに、他者のこと、地球のことを自然に思いやれるということはなんと素晴らしいことだろう。
「菅谷先生は『机の上のエリートではなく、人生のエリートになってください』というメッセージを残されたけれど、僕たちには現実に目の前に受験があって、今はいろいろ考えている時間がないんです。一体どうしたらいいんですか?」と眉間に深いしわを寄せて私に尋ねてきた男子生徒もいた。
私だって新人医師として自分の足元もおぼつかないような状況で、他人様を諭せるほどの大人でもなければ人生経験もない。そもそも私の発したメッセージじゃないわ、と思いつつ、しどろもどろになりながら、「もちろん、今は大変な時期だと思う。でもたとえば、1日10分くらい、自分のやりたいことを考えてみる時間をとるとか、興味がわいたことを少し掘り下げてみるとか、たとえば菅谷先生のことをもっと知りたければ、本を読んでみるとか…、少しの行動で、視界が開けたり、何かがつながってきたりすると思うよ。もし今大変で何もできないなら、せめてその気持ちを忘れないように、大事に持っていればいいんじゃない?今は受験に専念して、時間ができたら周りのことをたくさん考えてみる、ということでもいいと思うよ」と話したら、深くうなずいてくれた。菅谷先生が伝えたかったメッセージに沿っているかどうかはわからないが、がんばっている高校生を見て、私も応援したくなって、ついついそんなことを言っていた。
先生の行動を貫いている「子供たちの未来のために」という考え。ベラルーシの子供たちの瞳を見たとき、私も無条件に彼らのために何かをしたいと思った。そして今、高校生を見て思う。日本の将来を担うに足る若者たちがこんなにも生き生きと育っているのだ。彼ら、彼女らがこのままきらきらと生きていってほしいと思う。そして、少しだけ先に生まれてきた先輩として、私にできることがあれば、何でもお手伝いしたいと思う。彼らのために、という気持ちと、彼らと一緒に、という気持ち。そして、彼らなら大丈夫だろうという、確信に近い希望。なんだか、彼らを育んでいる私の母校を心から誇りに思った。
こんなに素晴らしい出会いを与えてくれた菅谷先生ならびに全ての関係者の方々に、心より厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。



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