山本 信夫先生(公益社団法人日本薬剤師会 会長)
薬機法の改正に伴って、薬剤師法も一部改正が予定されており、2019年秋に開催される臨時国会において、新たな概念に基づく薬剤師・薬局の業務を規定する制度の全貌が明らかになる。薬剤師の業務は、近年急速にその質を変化させており、薬物治療への積極的な関わりが期待されていることは、読者の皆様も日々肌で感じておられることと思う。
患者を個別化して、その患者に最適の薬物治療が行われるよう、薬学的な視点から処方の内容について検討すると同時に、服薬の過程のなかで得られた患者の状態などに関する記録を比較・検討しながら、正確な調剤と同時に薬学的視点に立った適切な情報提供と指導を行うことが重要であり、薬剤師には服薬期間中の患者の状況について把握し、一元的な服薬管理が求められていると言っても過言ではない。
患者や住民、あるいは医師をはじめとする医療関係職種から期待される役割を、患者からの聞き取りとあわせて、処方せんからさまざまな情報を読み取り、必要に応じて処方医への処方提案など、より効果的で安全・安心な薬物治療を目指すことが、薬剤師に求められる大きな役割と考えられる。
本書は、薬剤師が日々現場で直面するさまざまな課題のなかでも、当該患者に最適な医療を提供するうえで最も基本となる処方箋をもとに、段階を追って処方内容と患者情報から病態を推論し、そこに至る考え方について解説し、薬剤師の目から見た患者への処方薬に関する服薬指導の要点や、「医師がなぜこの処方をしたのか」について考察を加えている。
さらに医師の立場から、処方それ自体と、処方意図との関連が、現場で直面することの多い事例をあげながらわかりやすく解説されている。これからの薬剤師業務を的確に進めるうえで、ぜひ手元に置いておきたい書籍の一つである。
川上 純一先生(浜松医科大学医学部附属病院薬剤部 教授・薬剤部長)
「この処方箋は何だろう?」。薬剤師であれば誰もが経験したことのある場面である。
本来の薬物治療とは、患者さんの訴えや問題点が最初にあり、それに対して適切な診断に基づいて治療目的が設定され、その目的を達成するための手段の一つである。したがって、処方内容から病態や投薬目的を類推することは本来とは逆の流れになる。しかし、最初の診察から治療後のフォローまでを自身のなかで完結できる医師とは異なり、薬剤師の場合は多様な対物・対情報・対人業務を役割分担したり、ある時点だけで患者に関わったりせざるをえないこともある。そのため冒頭のような疑問をもつわけである。
本書は、そのような薬剤師としての処方箋への疑問をどう解決するのか、処方内容や患者情報から病態生理や処方医の意図・思考過程をどう理解するのかについて、30症例を用いて示されている。そして、患者さんへの対応法、岸田直樹先生からの実践的アドバイスや解説なども記されている。書籍の構成としても、症例の難易度や疾患・薬剤からの索引もあり、読者が関心のあるページから読むことができる。
また、本書のもとになったものは、宇高伸宜先生が保険薬局で受けた処方箋から疑問をもった内容について、薬局薬剤師の先生方で調べて掘り下げて取りまとめ、継続的に配信されていた社内情報紙とのことである。ここにもたいへん重要なポイントがある。「気づいた疑問は自ら調べること」、「情報はインプットだけでなくアウトプットを続けること」が大人の学びには必要だからである。
本書は、薬局薬剤師はもちろんのこと、病院・診療所薬剤師や薬学教員や薬学生にも手にしてほしい。それは明日からの薬剤師業務や臨床思考が変わることを期待できるからである。
亀井 美和子先生(日本大学薬学部薬事管理学研究室 教授)
昔から文庫本を最後まで一気に読むタイプの私ですが、薬剤師向けの書籍となると、途切れ途切れに、必要なところだけに目を通して終わり、という読み方をしていました。しかし、この書籍は開いてから最後まで途切れることなく一気に読んでしまいました。その理由は、「へえ」「そうなんだ」「これはどうして?」といった気持ちのまま読み進めたからです。「面白く読めて、役に立つ」というのが率直な感想です。
医療現場の日常には、教科書では解決できない疑問が山積しています。とりわけ薬局では、処方箋と薬歴の情報だけでは疑問が解消しないことがよく起こりますが、この書籍を読んでいくと、そういった疑問への向き合い方がわかってきます。まさに薬局薬剤師としての思考過程が磨かれていく感覚です。処方箋を受け取り、この患者さんにこの薬剤が「なぜ処方されているのか?」となったときに、それを解決するための病態と薬剤の知識が解説されており、さらに、このような患者さんへの対応方法が服薬指導の対話形式で示されています。
書籍には30の事例があげられていますが、なかには自分の経験と重なる事例があるかもしれません。一方、これまで経験したことがない事例も多く含まれているのではないかと思います。しかし、自分はこういう事例に遭遇することはないと断言できる薬剤師はいないはずです。この30の事例を通して思考過程を磨くことで、ここにある事例以外の「なぜ」に遭遇したときにも力が発揮できます。
薬学教育でこの思考を身につける教育が十分行われると、薬剤師になってから戸惑うことが少なくなるのではないかとも思います。薬剤師と薬学生の両者に勧めたい書籍です。