PICC
末梢挿入式中心静脈カテーテル管理の理論と実際
商品コード |
50080 |
編著 |
井上 善文/著 |
判型 |
B5判 |
発行日 |
2017年9月 |
ページ |
96頁 |
定価 |
¥3,520(税込) |
在庫 |
|
内容
●PICCに関わるすべての医師・看護師に
●PICCの第一人者が初めて書き下ろした実践書
●オールカラー、豊富なビジュアルでやさしく丁寧に解説
●失敗しない挿入手技、挿入後の管理のコツがしっかりわかる!
TPNや化学療法などで用いられるPICC(ピック)。従来の手技に比べて患者にやさしく安全なため普及が進み、現在は医師とともに診療看護師もPICCを挿入できるようになりました。
本書は、PICCをいち早く日本に導入した第一人者が解説する、国内初のPICCの本。PICCの基本から挿入手技、挿入後の管理や感染対策まで、豊富なカラー画像を交えてわかりやすく説明します。
これからPICCを使い始める方、自分の手技を見直したい方など、PICCに関心のある医師・看護師にきっと役立つ一冊です。
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目次
第1章 はじめに なぜ、PICCの普及に何十年もかかっているのか?
第2章 PICCとは
1 PICCという名称について
2 用語の正しい理解――PICCとCVCは別物?
3 用語の正しい理解――PICCに対するCICC
4 PICCの歴史を振り返る
5 PICCの適応は?
6 肘PICC? 上腕PICC?
7 エコーガイド下静脈穿刺の必要性
第3章 上腕PICC法の特徴とその背景
1 カテーテル挿入時(静脈穿刺時)に生命を脅かすような重大な合併症は発生しない
2 感染率が低い
3 カテーテル先端位置異常が起こりやすい
4 静脈血栓が形成されやすい、静脈炎の発生頻度が高い
5 CVC挿入時の患者の恐怖感が軽減される
6 術者のストレスが軽減される
第4章 エコーガイド下上腕PICC法の実際
1 PICC挿入の準備
①PICC挿入手技を実施する場所
②全身状態の把握
③清潔操作
④座って施行する
⑤穿刺する静脈の決定
2 エコーガイド下上腕PICC法の実施手順
①体位を決定する
②穿刺部位を消毒して駆血する
③高度バリアプレコーション下に、清潔操作で行う
④必要な器材を備える
⑤プローブの準備を行う
⑥静脈の位置を確認し、穿刺針を準備する
⑦エコーで観察しながら静脈を穿刺する
⑧外套を引いてきて、血液が逆流する位置でガイドワイヤーを挿入する
⑨局所麻酔を行い、穿刺部の皮膚を切開する
⑩静脈内にシースイントロデューサーを挿入する
⑪シースを介して静脈内にカテーテルを挿入する
⑫逆血を確認後、X線透視で先端位置を確認する
⑬カテーテルを静脈内に残す
⑭カテーテルを固定する
⑮カテーテルからスタイレットを引き抜く
⑯カテーテルにカテーテルコネクターを接続する
⑰カテーテルコネクターを固定する
⑱ドレッシングで被覆する
⑲X線撮影で先端位置を確認する
3 まとめ
第5章 PICC留置期間中の管理方法とコツ
①ドレッシング管理のコツ
②ドレッシング交換時の消毒
③輸液ラインは単純な構成に
④インラインフィルターの必要性と注意点
⑤ニードルレスコレクターによる汚染に注意
⑥安易な側注は感染リスクを増やす
⑦I-systemの活用
⑧脂肪乳剤の投与と接続部の管理
⑨インラインフィルターの上流・下流を区別する
⑩輸液ラインはエタノールで消毒する
⑪輸液ライン・ドレッシングの交換
⑫輸血・採血は原則行わない
⑬感染予防のためPPN輸液は投与しない
第6章 PICC導入における注意点
1 PICCは感染率が低いと単純に考えてはいけない
2 PICCを用いる目的を明確にしておく
3 安易な適応拡大はさまざまな合併症増加の原因に
第7章 PICCの管理成績
1 穿刺時の成績
2 留置期間中の成績
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書評
松村 由美先生(京都大学医学部附属病院医療安全管理部 教授)
本書は優れたマニュアルである。マニュアルとは、制定者の意図を実際の行為実施者に伝えるインターフェースである。意図が伝わらないとトラブルや事故が発生する。医療器具の使用方法のマニュアルは、行うべきことだけが列挙されがちであるが、本書には、なぜそうするのか、という理論が十分に記載されており、知識が定着しやすい工夫がなされている。本書を読んだうえで、PICCの挿入や管理を行うことで、事故の軽減にもつながるだろう。
まだPICCになじみのない医療者であれば、コラムだけをパラパラと読んでもよいだろう。著者の経験に基づいた興味深い話題とともに、知らず知らずのうちにPICCの知識が増えていくことが実感できる。PICCを取り入れてみたい、と考えるのではないだろうか。また、実際にPICCを取り入れてまだ経験の浅い医療者にとっては、コラムを読むことで、著者が長い経験によって会得したコツを学ぶことができる。これらのコツを惜しげもなく著者は提供しており、PICCを広めたいと考えている著者の熱意が伝わってくる。
本書の章立てを見てみよう。第1章「はじめに なぜ、PICCの普及に何十年もかかっているのか?」、第2章「PICCとは」、第3章「上腕PICC法の特徴とその背景」第4章「エコーガイド下上腕PICC法の実際」、第5章「PICC留置期間中の管理方法とコツ」、第6章「PICC導入における注意点」、第7章「PICCの管理成績」という流れになっている。PICCに関する必要な情報と注意点が記載され、バランスの良い構成になっており、医療安全上もお勧めである。ぜひ手にとって、その良さを実感していただきたい。
西村 匡司先生(徳島大学大学院救急集中治療医学 教授)
新しい物を導入しようとすると、抵抗を受けることがある。その後、普及しはじめると我も我もと利点・欠点、適応、注意点など省みることなく利用される。医療器具でもよくみられる現象で、PICCも同じではないだろうか。井上先生はPICCの有用性に早くから気づき導入に努力されてきたが、なかなか普及しなかった。いま、PICC(peripherally inserted central catheter)は広く利用されるようになってきた。一方で、ご多分にもれず、PICCが何であるかを正しく理解しないで利用されていることが多い。Peripherally insertedはあくまでもCCの意味するcentral catheterを修飾するもので、本質は中心静脈カテーテルである。医療の根本は患者本位である。PICCは従来の内頸や鎖骨下静脈に留置する中心静脈カテーテルに比較して患者に優しい。しかし、中心静脈カテーテルであることをしっかりと認識しないで用いると逆に患者に不利益をもたらす。本末転倒である。
本書は帯封に,PICCを使い始める医療者のための入門的専門書とある。初心者にもわかりやすいように写真を多く利用して、手順、注意点などが詳しく、わかりやすく記述されている。本書に従ってPICCを始めれば問題なく導入できることは間違いない。しかし、本書はPICCをすでに利用しPICCのエキスパートと自負している医療者にこそ読んでほしい。本書でもう一度、適応、手技やカテーテル留置後の管理方法などを再確認してほしい。なぜ挿入型ではなく、挿入式と呼ぶべきかをはじめ、目から鱗が落ちる箇所が1つや2つではないはずである。PICCを利用する医療者の皆様、刮目して本書を読んでください。
増本 幸二先生(筑波大学医学医療系小児外科 教授)
2017年9月に発刊になった、井上善文先生ご執筆の本書を読ませていただいた。
近年、中心静脈カテーテルを挿入する手技は大きく変化してきている。かつては鎖骨下や内頸などの静脈をアクセスルートとし、ランドマーク法を用いて穿刺することが基本であった。この穿刺法も、現在ではエコーガイド下で穿刺する方法が主流になっている。しかし、たとえエコーガイド下であっても、挿入時の重篤な合併症の危険性がある。一方、タイトルにもなっている末梢挿入式中心静脈カテーテル(PICC)の挿入は、本書でいう中枢挿入式カテーテル挿入という従来のカテーテル挿入に比べ、極めて安全で、挿入時の合併症が少なく、(適切な管理下では)カテーテル血流感染症の感染率が低いなどの利点があることが、科学的なエビデンスに加え、実経験や臨床研究成果を踏まえて書かれている。
臨床の場でPICCの話題が出ることは多く、実際に挿入してみたいと感じる医師は多くなるだろう。その挿入法であるエコーガイド下の上腕挿入法がどのようなものか、カテーテル挿入時にどこに注意を払うべきか、さらに挿入後のカテーテル管理のポイントなどについて、本書では豊富な写真やエコー所見を示されながら解説されており、非常にわかりやすい。さらに本書のなかにある多数散りばめられたNoteも面白い。井上先生のお考えや失敗談、それぞれの項目での注意すべき点などがエッセイのように書かれており、思わず引き込まれていく。読みやすく、わかりやすい、実践に適している。この本は初心者の先生方にもベテランの先生方にも実臨床で参考になるような、いわばPICC挿入法と管理のバイブルであり、PICC挿入時には常に読み返すべき本である。
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序文
序
PICC〔peripherally inserted central(venous)catheter:末梢挿入式中心静脈カテーテル〕がなかなか普及しない理由の一つは、PICCの意義が理解されていないことだと思われる。新しい技術を導入するに際しては、いろいろクリアしなければならない問題があることは間違いない。
私自身は新しい物好きな人間で、患者にとってもメリットがあると思われるものは積極的に導入したがる性格である。だから躊躇なく導入できているのであるが、新しい技術の導入は、確かに難しい部分がある。また、このPICCがなかなか導入できない理由は、鎖骨下穿刺や内頸静脈穿刺という、古くから行われている方法で対処できるので、あえて新しい方法を学んで導入する必要はない、と考えられているからでもあると思われる。しかし、深く考えると、このPICCには鎖骨下穿刺や内頸静脈穿刺の欠点を補う利点があり、また、本当に患者にやさしい、患者の恐怖心を軽減できるという大きなメリットがあることも確かである。だから、導入すべきである。
一方で、診療看護師に挿入させればよい、欧米では看護師が挿入しているのだ、重大な合併症が起こらない方法だから看護師に挿入させればよい、という考え方も出てきているし、実際に診療看護師が挿入している施設も増えてきている。1カ月に何十例とPICCを挿入している診療看護師もいる。これだけの本数をこなすと、技術レベルも非常に高い。そういう意味で、PICCが普及し始めている。これからどんどん広がることは間違いない。
ただし、正しい考え方のもとに導入し、正しい使い方をすること、これが最も重要であることは間違いない。技術は、そのノウハウさえ理解して実施できるようになれば、それで完成という雰囲気がある。特にカテーテルに関しては、その傾向は強い。
理論的な背景を知らないまま、流行語のように『ピック』という用語が使われるようになり、流行っているから、ということで『ピック』というカテーテルが使われるようになると、いろいろな問題が起こる恐れがある。理論を理解していれば、この問題にも対処できるはずである。「優れたカテーテルではあるが、きちんと理解して使わないといろいろな問題が起こる」という警告の意味も含めて、20年以上前からこの『PICC』を使っている外科医として、カテーテル管理の専門家として、栄養管理の専門家として、『PICC』に関する正しい情報をお伝えする。
なお、実際の挿入技術に関しては、さまざまな意見もあるであろうし、本書で紹介する内容に対する批判もあると思われる。その点については、今後、議論を重ねて本当に適切な方法を確立すればよいと思っている。本書は、その議論の魁、あるいは議論のスタートとしての意義を有しているのかもしれないと考えている。
井上 善文
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