Chernobyl Medical Fund Newsletter(3)


オクサナ先生の様子

長野県立こども病院新生児科部長 中村 友彦

新生児科で研修中のオクサナ先生
新生児科で研修中のオクサナ先生
 オクサナ・テスロバ先生の研修期間があと約1カ月になりました。

 私は2回ベラルーシ国を訪ね、新生児医療の現場を見てきましたが、医療施設、医療設備はまったく日本と変わりありません。もちろん地方の小さな病院では、設備や機器が長野県立こども病院に比べて見劣りするところもありましたが、それは日本も同じこと。私がベラルーシ国で問題と思ったのが、新生児医療のシステムの問題でした。第一に、集中治療の必要な新生児の診療を行っているのが、小児科医ではなく集中治療医(日本で言えば麻酔科医)であること。第二に、外科疾患のある新生児は外科医が診療していること。第三に、設備・機器は最新ですが、治療や薬剤に関する情報・知識が手に入りにくいこと。ベラルーシ語、ロシア語に翻訳された最新の新生児医療の情報が少ないためではないかと思いました。オクサナ先生には、実際に日本の新生児医療システムを見てもらい、それを参考にベラルーシに合ったシステムを作ってもらいたいと思います。

 次に、オクサナ先生の素晴らしいことは、医学研究に対する強い意欲を持ち、さらに卓越した才能を持っていることです。研修開始後わずか1カ月後に、新生児の肺成熟度の検査に大変興味を示し、その簡単な検査法をベラルーシ国に紹介したいとおっしゃられました。さらに肺成熟に関与する新生児・母体因子について、こども病院に入院した数年間の児の診療録(日本語!)を調べて、大変有益な発見をしました。その成果は、すでに欧州新生児学会雑誌に投稿して採用されるか結果待ちです。さらに2つ目の論文も書いて、現在、私が手直ししています。その研究のまとめに当たってオクサナ先生の科学者としての才能は素晴らしいと思いました。私の回りにいる日本人でも、彼女ほど才能のある人は少ないかと思います。

 オクサナ先生の性格は明るく、日本人の先生方とも皆仲良くなっています。英語が大変上手で、新生児科の先生達も彼女に刺激されて英会話の勉強を始めたようです。学生時代はフェンシングの選手だったとのこと。スポーツが大好きで、1日おきに近くのスイミングプールに泳ぎに行っているとのこと、私達が行っている野球の試合にもいつも参加しています。来日して1週間目くらいに、残してきたお子さんが熱を出したとのことで、心配して涙を流していました。1〜2月ころは落ち込んでいる様子も見受けましたが、春の訪れとともに元気になってきたように思います。3月の中旬に広島で日本集中治療学会があったので一緒に行きました。良い機会なので原爆資料記念館を訪れました。「貴重な資料をしっかり保存して、後世に伝えている」ことに感心していました。ベラルーシ国では、チェルノブイリの事故のことは徐々に忘れつつあり、または忘れさせられようとされているのでしょうか?  あと数週間、病気や事故がなく、有意義な研修をしてもらえるように願っています。




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