2025.07.11

【学会レポート】第28回日本臨床救急医学会総会・学術集会

 第28回日本臨床救急医学会総会・学術集会が6月19~21日、パシフィコ横浜会議センターで開かれた。メインテーマは「Go for the Cutting Edge~最高のアウトカムを目指して~」。大会長の守谷俊氏(自治医科大学附属さいたま医療センター救急科)が開会挨拶で「日ごろの臨床でカッティング・エッジ(最先端)に出合わない人はいない。それを披露してほしい」と呼びかけたとおり、各職種の立場から現場のさまざまな取り組みや成果が紹介され、どの会場も大きな盛り上がりをみせた。

 

 

研究・教育で専門薬剤師のアウトカムを

 初日午前のパネルディスカッション「救急専門薬剤師の薬学的介入のポイント~最高のアウトカムを見据えた介入~」では、救急専門薬剤師によりもたらされたアウトカムを4名の演者が披露した。

 齋藤靖弘氏(札幌東徳洲会病院薬剤部/医学研究所)は、自施設の後輩が関与した症例を示しながら、救急専門薬剤師が研究・教育の役割を担う重要性を説いた。

制度規則でも専門薬剤師には研究、教育が求められている

 症例は、同院循環器内科をかかりつけとする患者が、3日前から続く倦怠感と嘔吐を訴え、時間外外来を受診したというもの。定期受診で肝機能の数値上昇がみられたものの、来院後の採血では肝機能が正常だったことから、救急医は倦怠感・嘔吐の原因が肝障害以外である可能性を疑い、救急外来担当の薬剤師のもとを訪れ相談した。

 これに対し同薬剤師は、すぐには原因が思い当たらなかったが、その場に居合わせた齋藤氏が患者の服用薬などの情報をもとに「薬剤起因性ではないか」と考え、医師への相談を促したところ、倦怠感・嘔吐はSGLT2阻害薬によるeuDKA(正常血糖ケトアシドーシス)の症状であることが判明、インスリン治療で改善に至ったという。

 齋藤氏は、「この症例だけみれば薬剤師の介入事例の一つにすぎない」とし、専門薬剤師であれば、ここで終わらせず、未来の薬剤師にエビデンスを残すためにも症例の論文化までサポートすべきと訴えた。自身の初めての論文発表もメンターの大きなサポートがあったからこそ実現できたというエピソードを紹介したうえで、「自分が書けるようになったから終わりではいけない。今度は後輩の成功を支えないといけない」と指摘。同症例は後輩薬剤師によって論文になったとのことで、そのことこそが指導的立場を担う専門薬剤師にとってのアウトカムだと強調した。

認定・専門薬剤師は実践・研究・教育を担う(齋藤のスライドより)


 

救急外来での職能発揮の実際を紹介

 薬剤師業務をテーマとするセッションは2日目にも設けられ、午前のパネルディスカッション「救急医療の薬剤師業務のポイント」では、各施設で薬剤師が救急の現場にどのように関わっているか、具体的な事例とともに示された。

 佐藤充朗氏(深谷赤十字病院薬剤部)は症例を紹介しながら、救急外来に薬剤師が関わる意義として、一刻を争う場面でスムーズな薬剤投与が可能となることを挙げた。最初に示したのは、脳梗塞で搬送されてきた患者の症例。MRIを撮影している間に薬剤師が服用薬を確認し、ダビガトランの使用を把握。t-PA使用の可能性があるケースだが、APTTが63.8秒と延長を認めることを確認したうえで、まずイダルシズマブを投与してからアルテプラーゼを投与する方法を医師に提案、t-PAの迅速な投与につながったという。

 また、交通外傷の5歳児の症例では、搬送中に心肺停止(CPA)になる可能性ありとの連絡を救急隊から受けたため、薬剤師は医師と相談のうえ、アドレナリンや挿管に使用する薬剤の希釈方法・投与量などを到着前に決定して準備。幸いCPAには至らなかったためアドレナリンは使われなかったが、挿管は滞りなく実施することができた。

 意識障害で搬送された患者の症例では、頭蓋内疾患の疑いで頭部CTが施行される間に薬剤師が既往歴・常用薬を確認したところ、心房細動でエドキサバンを服用していることがわかった。出血の場合に中和薬のアンデキサネットアルファが投与されるのに備え、家族に最終服用時間を確認。視床出血と診断されると速やかに同薬の投与方法などを医師に提案するとともに、看護師に投与速度を説明し、職種間連携で適切な薬物療法が進められた。

 自施設の事例を踏まえ佐藤氏は、救急外来への薬剤師の関与について、施設の事情により難しい場合があることに理解を示しながらも、「当院のように、できる業務から開始し、徐々に業務を拡大していくという方法もある」と主張。現場での薬剤師の需要が高まるなか、より多くの施設で薬剤師が救急外来に関わっていくよう呼びかけた。

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