Chernobyl Medical Fund Newsletter
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ベラルーシ周産期医療視察報告

長野県立こども病院新生児科部長:中村 友彦

  チェルノブイリ医療基金(CMF)の活動として、2008年7月25日〜8月2日にCMFの千原幹司役員を団長に、CMFの中澤役員、こども病院新生児科佐野葉子医師とベラルーシ保健省、ベラルーシ国立医科大学、国立医療研究所母子病院、モーズリ市産院、モーズリ市小児病院、ゴメリ市産院、ゴメリ州立病院、ゴメリ州立病院付属産院、ミンスク市立第1、2、3、6病院を訪問し、周産期、特に新生児医療について視察してきた。

1.ベラルーシの周産期・新生児医療の現状
 チェルノブイリ原発事故の影響:被爆した小児が現在、生殖年齢に達して今後あらたな問題が予測されている。ゴメリ州では、死産児が増加しているとのこと、また先天異常の児も多いが、原発事故の影響かどうかについては、事故前の統計がないのではっきりしない。
 周産期医療設備:全国の周産期医療が1次(外来診療のみ)から4次周産期医療を分担し、首都ミンスクにある国立母子病院が最終的な4次医療を担うシステムになっている。国立母子病院は現在改築中であったが、大統領の肝入りで最新鋭の設備と医療機器がそろっていた。3次医療を担うミンスクの小児病院、ゴメリ小児病院はそれぞれ産科が併設され、分娩数は年間4000〜5000、産科超音波機器も最新鋭で、新生児医療も整備が十分であった。2次医療を担うモーズリ市産院、小児病院では、重症患者は州立病院へ搬送するとのことで、主に正常児を診療していた。
 周産期医療診療体制、医師研修システム:新生児集中治療は、麻酔科医、救急医が行っていた。集中治療が必要なくなった時点で小児科医の元に移される。2次病院で新生児集中治療が必要な場合は、救急医のいる設備の整った3次、4次医療施設に搬送している。新生児集中治療に従事する小児科医はいないようで、当科で2年前に研修したチェルニショワ医師は、2次周産期医療施設であるモーズリ市産院に勤めており、正常産児または軽症児の診療を担当しており、当科での新生児集中治療の研修がすぐに役立ってはいないのではないかと思われた。

2.ベラルーシ周産期・新生児医療の課題
 周産期医療設備:モーズリ市産院、小児病院では、設備、機器が不足しているようであったが、ベラルーシ全体としては、高度医療施設から順次整備をしているようであった。ただし、新生児搬送が長距離であるにも関わらず、そのための施設整備はまだほとんど考えられていないようであった。
 周産期医療診療システム:臓器別に区分されたミンスクの小児病院で診療されている新生児や、外科病棟で治療が行われている新生児外科疾患の児が、集中的に新生児集中治療室で診療されれば効率が上がると思われた。
 周産期医療研修体制:小児科医が新生児集中治療に参画できれば良いと思われた。

3.CMFならびに長野県立こども病院と
  ベラルーシ周産期・新生児医療交流への提言
a.医師招聘:小児科医が、胎児診療ならびに新生児集中治療に関わり、先天異常の疾患の児も小児科医が主体となって診療する新生児診療体制について、指導的立場にある医師または行政官に長野県立こども病院を視察してもらう。
b.ベラルーシでの講習会、研修会:ベラルーシの小児科医、新生児医療従事者を対象に現地で日本の新生児医療システムや新生児搬送方法を紹介し、知識と人の交流を行う。



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