Chernobyl Medical Fund Newsletter (1)


 支援者の皆々様へ

菅谷 昭


 
21世紀は、国や民族、宗教をこえ人類が手をつなぎ、地球を大切に守り、平和を希求しつつ、共に歩んでいかなければならないと、世界中の誰もが心に誓っていたものと信じていました。しかし、とんでもない新世紀の幕開けとなってしまいました。かってどこかで読んだ一節ですが、“人間とは度しがたい生き物だ”と、つくづく思うこの頃です。
 さて年末も押し迫り、何かと気ぜわしい毎日ですが、皆様におかれましてはいかがお過ごしでしょうか。日頃より、基金への格別のお心遣いや、暖かい励ましのお便りを頂戴いたし、この場をお借りして、心より深く深くお礼申しあげます。

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 前号のニューズレターで、「私は今、時間的余裕と精神的安寧の中に身を委ねております」と書きました。しかしこれも束の間、まもなくしますと全国各地より、私のベラルーシでの経験について話をしてほしいとの連絡が舞い込み、その上、報道や出版関係からの取材等にも追いまわされ、思いもよらぬ忙しさにいささか驚きと疲労をおぼえた半年でした。「いったい日本はどうなっているんだろう」と一人つぶやきながら、講演の旅に明け暮れました。
 でもそんな中で、私の心をなごませ、将来への期待を深くさせてくれたのは、21世紀の日本を担う中学生や高校生との出会いでした。彼らは実に感性が豊かで、かつやさしく、勇気に満ちていました。私はこのような若者たちを信じ、できるかぎり手助けをしようと心に決めたものでした。
 ところで、私は彼らへの講演の際にはいつもこう言っています。
 「とても残念だけど、私は今の日本を動かしている大人たちにはほとんど期待していません」と。
 更に次のようなことも問いかけています。
 「時代に流されることなく、ときには勇気を持って立ち止まり、もう一度自分を見つめ直してほしい」
 「人の上に立つ人間よりは、人を支える人間になってほしい」
 「世の中には色々の人間がいます。“人々の口(話題)にのぼる人間”“人々の記憶(頭)に残る人間”“人々の心に宿る人間”さあ、君はどんな人間になりたいですか」

 このようなことを、「私はいい医者じゃなかったから、反省をこめて言わせてもらいました」という言葉で話を結んでいます。すると後日、彼らからはっと驚くような感想文が私の手元に届きます。それらを全て読んでいただきたいのですが、ここに愛知県の中学2年生女子の文章を引用させていただきます。
 「先生の話を聴いて、自分もちょっとしたきっかけで人のためになることをしたいと思いました。それは私の中でいつになるかわからないけれど、自分のこれからの道をどう生きるか考えさせられました。(中略)私も死ぬ時は自分の生き方はまちがっていないと満足して死を迎えたいと思いました。それには自分の行動にうつしかえなければいけないということを教えられ、これからの生きる道が少しでもひらけたと思います。これから少しずつ変わっていきたい!」
 これは中学生の感想ですが、高校生になりますと更に鋭く現在の社会をえぐった描写を寄せ、しばし考え込まされることがあります。
 日本の明日を背負って立つ若者たちに並々ならぬ期待を寄せる一方、日本の大人たちも大きく変わらないといけない時代が到来しているのではないかと、5年半ぶりの日本を駆けまわりながら強く感じる昨今です


 帰国後は当分の間ゆっくり休養し、ベラルーシで充電したものをいかに放電するかについてしっかり考える計画をしていた矢先、田中康夫長野県知事に呼び出され、結局この12月より県の衛生行政に携わる砂目になってしまいました。またしても思わぬ道を歩むわけですが、県民の保健・医療の改善や変革に少しでもお役に立てればと考え、お引き受けした次第です。
 なお、「チェルノブイリ医療協力活動」は今後も継続させてもらうことを条件としましたのでご安心下さい。ただし公務員という理由で、当基金の代表は、当分、(株)「じほう」の代表取締役武田正一郎氏にお願いしましたのでご報告申しあげます。

 



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