2025.02.05

【編集担当の新刊紹介】クリティカルケア薬 改訂版 ココを見て!

クリティカルケアで高まる薬剤師への期待

 「治療によって回復可能と考えられるが、48時間以内に死亡する可能性が極めて高い重篤な状態にある患者に対する全身的かつ系統的な治療管理」――そう定義されるクリティカルケアにおいて、薬剤の選択・使用にはいっそうの注意と高い質が求められ、薬剤師の担う役割は大きい。そんな薬剤師の心強い味方となる実践書『クリティカルケア薬Essence&Practice Update for 2025-27』が発売された。同書を活用する意義を、クリティカルケアの現状を踏まえ紹介する。

現場の人材不足は“深刻”

 COVID-19のパンデミックは全世界に未曽有の被害をもたらすとともに、社会のあり方や日々の行動を見直すきっかけとなった。感染症に対する危機管理意識が高まっただけでなく、ベッド上で生死の境をさまようことになる恐怖が、実は何気ない日常のすぐそばに潜んでいるという現実を国民は突き付けられた。ICUなどで奮闘する医療従事者にもスポットがあたり、メディアでは専門家がECMOについて解説する一方、それら医療機器の充実など環境整備の必要性が報じられたのは記憶に新しい。

 しかし、行政からさまざまな施策が打ち出されているものの、救急搬送患者が増加の一途をたどっていることもあり、救急医療体制の整備はいまだ十分といえず、またICUの病床数も米国などと比べると少ない。救急・集中治療の第一線で活躍する今井徹氏(日本大学医学部附属板橋病院薬剤部)は「医師の働き方改革なども相まって、救急医療の人材不足問題や地域偏在化は深刻」と実感を語る。

事故種別の救急出動件数と構成比の5年ごとの推移

〔総務省:「令和5年中の救急出動件数等(速報値)」の公表,令和6年3月29日より引用〕

成人のICU病床数〔2019年(または直近年)と、2020年〕

〔厚生労働省:医療提供体制の国際比較,令和4年3月2日より引用〕

薬剤師の活躍がチームを支える

 現状改善のカギとなるのは、医師が過度な負担を負わず、各スタッフが職種の垣根を越えて強みを発揮するチーム医療だ。もちろん薬剤師も例外ではない。意識障害のある救急患者では薬歴の把握が難しく、薬剤師による迅速・正確な服薬情報の入手が不可欠。また、ICUでは循環や呼吸に影響を及ぼすハイリスク薬が頻用されるのに加え、刻々と変化する患者の状態に応じ投与量・速度が頻繁に変更されるため、医薬品関連のインシデントが起こりやすい。クリティカルケアでは、薬剤師の知識・スキルを発揮できる余地が他の場面よりも大きい。

 薬剤師への期待は、学会の動きからも窺える。日本臨床救急医学会では、以前より認定してきた救急認定薬剤師の上位資格として救急専門薬剤師制度を2023年に設立。2024年11月現在、救急認定薬剤師335名、救急専門薬剤師23名が全国で活躍している。また、日本集中治療医学会も集中治療専門薬剤師制度を2024年にスタートさせた。

ICUで期待される薬剤師業務の例

〔今井徹氏(日本大学医学部附属板橋病院薬剤部)作成〕

 さらに、日本臨床救急医学会は日本病院薬剤師会と共同で「救急外来における薬剤師業務の進め方」を作成中。救急外来の現場で薬剤師は何を行い、どのように進めるべきか。ポイントを体系的に整理し、業務を円滑に遂行するためのガイドとしてまとめている。作成メンバーのひとりとして今井氏は「すでに救急外来で薬剤師業務を実施している施設には、業務の見直しや新たな業務展開の際の参考資料として、また、これから業務を計画している施設には、施設の状況に合わせて実施可能な業務を検討するための指針として、活用していただきたい」と呼びかける。

今井徹氏

臨床のリアルで求められる情報がこの一冊に

 クリティカルケアが必要なケースに遭遇するのはERやICUだけとは限らない。一般病棟にも重症患者は入院しており、もちろん急変はあり得る。チームの一員として、いざという時にどう行動すべきか。日頃から最低限の知識を身につけるとともに、薬物療法に必要な情報を緊急時に素早く入手できるよう備えておくことは、薬のプロとしての責務といえるだろう。

 クリティカルケアの情報源のひとつとしてER・ICU・一般病棟で重宝されているのが、じほう発行の書籍『クリティカルケア薬Essence&Practice』だ。日本集中治療教育研究会(JSEPTIC)薬剤師部会の経験豊富なメンバーが執筆を手掛けた本書は、2021年に発刊。重症患者に携わる医療スタッフが本当に欲しい情報だけを徹底的に追求した内容は「困った際に調べれば、高確率で必要な情報が見つかる」などと高い評価を得ているが、このたび待望の改訂版『クリティカルケア薬Essence&Practice Update for 2025-27』が上梓された。

 初版では、薬剤の適応外使用も含む“臨床のリアル”に対応するための情報が、豊富なエビデンスとともに盛り込まれた。その特長は今版も健在。国内外の各種ガイドラインや試験結果など最新の知見を踏まえ、薬剤の選択・使い分けの際に知りたい情報がアップデートされている。

 Ⅰ~Ⅴ章では、機能低下時や医療機器使用時の薬剤の使い方、相互作用、副作用、頻用される計算式など、クリティカルケアで薬物療法に携わるうえで押さえておくべきポイントが網羅されている。Ⅵ章では頻用薬ごとに特徴や使い方が解説され、今版ではFantastic Fourのエビデンスが出てきたのに合わせて「心不全治療薬」の項が加えられたほか、最近の臨床での重要性に鑑み「消化器用薬」と「甲状腺用薬」の項が新たに追加。また、現場で重要な注射薬の調製例の記載が前版よりも充実しているだけでなく、要望の多かった索引も設けられ、さらに“使える一冊”に仕上がっている。

編集に携わった今井氏は「クリティカルケアのプロフェッショナルは、知識の確認に使える。初学者は、重症患者の薬物治療に迷った場合には、その都度調べてほしい。自分の勉強用だけでなく、ICUや病棟に1冊置いて、ボロボロになるまでわからないことを調べてほしい」と勧める。エキスパートが自分たちのノウハウを余すことなく持ち寄り完成した、この一冊。“綺麗事では救えない”を実感する医療者は、ぜひ手に取ってその価値を確認していただきたい。

病棟・ICU・ERで使える クリティカルケア薬 Essence & Practice Update for 2025-27

病棟・ICU・ERで使える

クリティカルケア薬 Essence & Practice Update for 2025-27

定価11,000円(本体10,000円+税10%)

“本物” を求める医療者に贈る珠玉の1冊!

臨床のリアルに徹底的にこだわった好評書が待望の改訂。添付文書やIFにとどまらないエビデンスの充実度は残しつつ、最新の知見を盛り込み、臨床で本当に必要な情報が得られる現場オリエンテッドな内容となっています。

シェア