【Webエッセイ】引退したら何するよ?
続きを読む
2025.01.15
【Webエッセイ】引退したら何するよ?

「引退したら何するよ?」  薬局を経営している友人が、しゃっくりをしながら僕にこう尋ねてきた。酒の席ではこういった話題になることがままある。お互い、今のままでいいのだろうか、といった思いがあるのかもしれない。僕の返答としては「仕事がなくなったらやることない。ぼけたくないね」といったものが多い気がする。だいたいにおいて、酒の席では、頭はほとんど回っていないのだが、それにしても、引退後はいったい何をして生きているのだろうか、それが想像できない。友人も僕も薬剤師で、そのライセンスに有効期限はないのだが、想像できないものは仕方がない。そしてそれは、僕らには仕事しかない、ということをありありと突きつける現実のようにもみえた。そう、僕らには趣味がないのだ。 趣味というと、旅行やスポーツを挙げることが多いように思うが、趣味(hobby)の国のイギリスではそれらは含まれないらしい。芸術や研究といった創造的なもの、人間性を高めるものを指すらしいのだ。ということは、健康を考えてときどき泳いだりすることは、本来の意味での趣味ではないということになる。そもそも、身体が動かなくなったら、怪我をしたら、できなくなってしまうし…。本を読むが、読書というものはそれ自体が目的とはなりえないものだし、そんなことになったら読書はきっとつまらないものになってしまうに違いない。読書を踏まえてアウトプットをすれば、創造的なものと考えてもいいのだろうか。 そういえば、仕事を続けている65歳の田舎の父親を心配して、30代の男性が燃え殻さんに相談をしていた。「趣味のない父親が心配です」と。その回答はこうだった。 僕は「趣味なんて考えたこともなかった!」と言って死にたいものだと密かに思って生きてきました。(中略)趣味と仕事とそれ以外。それぞれ全部に仕切りがなく「俺、いま何やってんだろう? 仕事? いや趣味入っているなこれ、てかさっきから青汁のドキュメント番組観ながら脳をカラにしていたわ」ぐらいで生きていけたら最高だと思っています。趣味のない65歳。いいですね。仕上がりがいいです。それは、あともう少しで僕の理想の人生です。 -燃え殻:相談の森.ネコノス,p47,2020  引退した後のために趣味を、と考えている時点で、それは客観的にみても、たしかにかっこ悪い…。だからといって、趣味と仕事とそれ以外の仕切りを外す、それはそれで少しこわい気がする。仕事ばかりになりそうだからだ。ただ、思い切って、その仕切りを外すことができたのなら、もっと仕事が面白くなっていくのかもしれない。そして、結局のところ、こういった話は人生論へとつながっていく。 そもそも、僕はどういう人生を望んでいるのか。  それは案外はっきりしていて、立派に生きて、立派に死にたいのだ。これはモンテーニュが『エセー』のなかで述べている言葉で、僕も読書を続けるうちにそう考えるようになった。でも、これはとても抽象的な言葉で、そう、いわゆる方針のようなものだ。この世の中には具体的なものしかない。だから、具体的にどうするのかを、もしくは、どうだったのかを僕が判断していくしかない。立派に生きているかどうかは、それはその都度、評価していけばいい。そしてそれは、そういった行為を忘れずにいれば難しいことではないようにも感じる。 一方で、難しいのは立派に死ぬことだ。「引退したら何するよ」どころではない。引退するような年齢になったら、きっと死というものが射程に入ってくる。「趣味なんて考えたこともなかった!」と言って死ねたら最高なのだろうか。こういった個人的な問題に一般解なんて存在しないことを百も承知で、それでも「立派に死ぬって、どうしたらいいと思う?」って口にするほうが、「引退したら何するよ」とくっちゃべっているよりも何倍もかっこよくみえるのは間違いない。 山本 雄一郎(やまもと ゆういちろう) 1998年熊本大学薬学部卒。製薬会社でMRとして勤務した後、株式会社ファルマウニオン(本社:福岡市城南区)の前身である有限会社アップル薬局に入社。2014年1月から日経ドラッグインフォメーションOnlineコラム「薬局にソクラテスがやってきた」を連載(全100回)。2017年3月『薬局で使える実践薬学』(日経BP社)、2022年10月『誰も教えてくれなかった実践薬学管理』(じほう)、2024年3月『ソクラテスが贈る若手薬剤師研修テキスト~薬局薬剤師として輝くために~』(kindle)、2024年9月『誰も教えてくれなかった実践薬歴 改訂版』(じほう)を発刊。2017年4月より熊本大学薬学部臨床教授、同年8月より有限会社アップル薬局の代表取締役に就任。2024年1月より合同会社ファーマエディタ代表社員、同年9月よりI&H株式会社(スギ薬局グループ)執行役員、グループ管理部長を兼任。有限会社アップル薬局の吸収合併に伴い、2025年1月より株式会社ファルマウニオンの代表取締役に就任。 @kumamotoPh usan_appleph...

トピックス from Jiho[2025年1月下旬]
続きを読む
2025.01.17
トピックス from Jiho[2025年1月下旬]

日本薬剤師会の原口亨副会長は会見で、カスタマーハラスメント(カスハラ)などを受けた場合に備える独自の保険を創設したことを報告した。補償対象者は開設者や薬剤師のほか職員や業務補助者も含み、弁護士などへの相談料や訴訟費用などが補償対象になる。

【Webエッセイ】引退したら何するよ?
続きを読む
2025.01.15
【Webエッセイ】引退したら何するよ?

「引退したら何するよ?」  薬局を経営している友人が、しゃっくりをしながら僕にこう尋ねてきた。酒の席ではこういった話題になることがままある。お互い、今のままでいいのだろうか、といった思いがあるのかもしれない。僕の返答としては「仕事がなくなったらやることない。ぼけたくないね」といったものが多い気がする。だいたいにおいて、酒の席では、頭はほとんど回っていないのだが、それにしても、引退後はいったい何をして生きているのだろうか、それが想像できない。友人も僕も薬剤師で、そのライセンスに有効期限はないのだが、想像できないものは仕方がない。そしてそれは、僕らには仕事しかない、ということをありありと突きつける現実のようにもみえた。そう、僕らには趣味がないのだ。 趣味というと、旅行やスポーツを挙げることが多いように思うが、趣味(hobby)の国のイギリスではそれらは含まれないらしい。芸術や研究といった創造的なもの、人間性を高めるものを指すらしいのだ。ということは、健康を考えてときどき泳いだりすることは、本来の意味での趣味ではないということになる。そもそも、身体が動かなくなったら、怪我をしたら、できなくなってしまうし…。本を読むが、読書というものはそれ自体が目的とはなりえないものだし、そんなことになったら読書はきっとつまらないものになってしまうに違いない。読書を踏まえてアウトプットをすれば、創造的なものと考えてもいいのだろうか。 そういえば、仕事を続けている65歳の田舎の父親を心配して、30代の男性が燃え殻さんに相談をしていた。「趣味のない父親が心配です」と。その回答はこうだった。 僕は「趣味なんて考えたこともなかった!」と言って死にたいものだと密かに思って生きてきました。(中略)趣味と仕事とそれ以外。それぞれ全部に仕切りがなく「俺、いま何やってんだろう? 仕事? いや趣味入っているなこれ、てかさっきから青汁のドキュメント番組観ながら脳をカラにしていたわ」ぐらいで生きていけたら最高だと思っています。趣味のない65歳。いいですね。仕上がりがいいです。それは、あともう少しで僕の理想の人生です。 -燃え殻:相談の森.ネコノス,p47,2020  引退した後のために趣味を、と考えている時点で、それは客観的にみても、たしかにかっこ悪い…。だからといって、趣味と仕事とそれ以外の仕切りを外す、それはそれで少しこわい気がする。仕事ばかりになりそうだからだ。ただ、思い切って、その仕切りを外すことができたのなら、もっと仕事が面白くなっていくのかもしれない。そして、結局のところ、こういった話は人生論へとつながっていく。 そもそも、僕はどういう人生を望んでいるのか。  それは案外はっきりしていて、立派に生きて、立派に死にたいのだ。これはモンテーニュが『エセー』のなかで述べている言葉で、僕も読書を続けるうちにそう考えるようになった。でも、これはとても抽象的な言葉で、そう、いわゆる方針のようなものだ。この世の中には具体的なものしかない。だから、具体的にどうするのかを、もしくは、どうだったのかを僕が判断していくしかない。立派に生きているかどうかは、それはその都度、評価していけばいい。そしてそれは、そういった行為を忘れずにいれば難しいことではないようにも感じる。 一方で、難しいのは立派に死ぬことだ。「引退したら何するよ」どころではない。引退するような年齢になったら、きっと死というものが射程に入ってくる。「趣味なんて考えたこともなかった!」と言って死ねたら最高なのだろうか。こういった個人的な問題に一般解なんて存在しないことを百も承知で、それでも「立派に死ぬって、どうしたらいいと思う?」って口にするほうが、「引退したら何するよ」とくっちゃべっているよりも何倍もかっこよくみえるのは間違いない。 山本 雄一郎(やまもと ゆういちろう) 1998年熊本大学薬学部卒。製薬会社でMRとして勤務した後、株式会社ファルマウニオン(本社:福岡市城南区)の前身である有限会社アップル薬局に入社。2014年1月から日経ドラッグインフォメーションOnlineコラム「薬局にソクラテスがやってきた」を連載(全100回)。2017年3月『薬局で使える実践薬学』(日経BP社)、2022年10月『誰も教えてくれなかった実践薬学管理』(じほう)、2024年3月『ソクラテスが贈る若手薬剤師研修テキスト~薬局薬剤師として輝くために~』(kindle)、2024年9月『誰も教えてくれなかった実践薬歴 改訂版』(じほう)を発刊。2017年4月より熊本大学薬学部臨床教授、同年8月より有限会社アップル薬局の代表取締役に就任。2024年1月より合同会社ファーマエディタ代表社員、同年9月よりI&H株式会社(スギ薬局グループ)執行役員、グループ管理部長を兼任。有限会社アップル薬局の吸収合併に伴い、2025年1月より株式会社ファルマウニオンの代表取締役に就任。 @kumamotoPh usan_appleph...

【編集担当の新刊紹介】「治療薬ハンドブック2025」 ココを見てください!
続きを読む
2025.01.10
【編集担当の新刊紹介】「治療薬ハンドブック2025」 ココを見てください!

毎年好評をいただいている「治療薬ハンドブック」の2025年版が1月8日にいよいよ発売となりました。実際に「治療薬ハンドブック2025」を編集した担当者が、2025年版のイチ押しポイントをご紹介します。まだ「治療薬ハンドブック」を使用されたことのない医師や薬剤師、看護師の方も、ぜひお近くの書店などで一度お手に取ってご覧ください!

注目の学会・研修情報[2025年1月]
続きを読む
2025.01.08
注目の学会・研修情報[2025年1月]

2025年1月に開催される主な学会情報、オンデマンドセミナーの情報をお届けします。

ジャンルから探す Genre Search

発刊月から探すPublication Search

ランキングRanking

  • 医療従事者向け書籍
  • 製薬・医療機器・卸関連企業向け書籍

ランキングRanking

  • 医療従事者向け書籍
  • 製薬・医療機器・卸関連企業向け書籍