妊活中の薬はどう考える?薬剤師が確認したい妊娠前の服薬ポイント
「妊娠を考えていますが、この薬を続けても大丈夫?」
「妊活を始めるので、薬はやめた方がよい?」
薬局でこうした相談を受けたとき、すぐに答えを出すのは難しいものです。
妊娠前の服薬では、薬による影響だけを切り取って考えることはできません。現在治療している病気や症状、服薬状況なども含めて考える必要があるためです。
なかには、妊娠への影響を心配するあまり、自分の判断で薬を減らしたり、中止したりしている患者さんもいます。しかし、必要な治療を中断することで病状が悪化する可能性もあります。
そこで薬剤師に求められるのが、患者の不安を受け止めながら、現在の状況を具体的に整理することです。
何を心配しているのか、どのような薬を何のために使用しているのか、服用方法を変えていないか。こうした情報を確認したうえで、必要に応じて処方医や専門的な相談先につなげます。
この記事では、プレコンセプションケアの視点から、妊活・妊娠前の薬について相談された際に薬剤師が確認したいポイントを紹介します。
目次
プレコンセプションケアの視点で妊活・妊娠前の薬を考える
プレコンセプションケアでは、妊娠が成立してから健康や治療について考え始めるのではなく、将来の妊娠・出産も見据えながら自分の健康と向き合うことが大切です。
持病があり継続的に薬を使用している人にとって、服薬について考えることもその一つです。妊娠を希望するようになった段階で相談できれば、現在の治療について処方医と話し合う機会を持てます。
薬局で相談を受けた際も、「妊娠したらどうするか」だけではなく、「妊娠を考えている今、確認しておくことは何か」という視点を持つことが求められます。
妊娠前から薬について相談する意味
薬と妊娠について不安を感じていても「まだ妊娠していないから相談するのは早い」と考える人もいます。
しかし、妊娠前から相談することで、現在使用している薬や治療について処方医と確認する時間を持つことができます。妊娠を希望していることが治療を担当する医師に伝わっていなければ、その情報を共有するきっかけにもなります。
薬剤師が患者から相談を受けたときは、薬の安全性についてすぐに結論を出すよりも、現在の治療状況を確認し、患者がどのような点を心配しているのかを聞くことから始めましょう。
「薬を飲んでいると妊娠に影響するのではないか」
「妊娠する前に全部やめなければいけないのではないか」
といった不安を抱えている場合もあります。
妊娠前の段階から相談できることを知ってもらうことは、患者が一人で悩んだり、自己判断で服用方法を変えたりすることを防ぐきっかけにもなります。
「妊活中は薬を飲まない方がよい」と一律に考えない
妊娠への影響から「薬は少ない方がよい」「妊活を始めたら薬をやめた方がよい」と考えてしまうことがあります。
しかし、治療中の疾患によっては薬を継続した方が良い場合もあります。自己判断で薬を中止した結果、病状が悪化すれば、患者自身の健康に影響するだけでなく、その後の妊娠について考えるうえでも新たな問題につながってしまう可能性があります。
妊娠前の服薬を考えるときは、薬による影響と、治療を続ける必要性の両方を見ることが欠かせません。
患者さんがすでに服用を中止していた場合はまず理由を聞きましょう。
「赤ちゃんへの影響が怖かった」「インターネットで薬を飲まない方がよいと読んだ」など、背景にある不安を知ることで、その後のサポートにもつなげられます。
妊活・妊娠前の薬の相談で薬剤師が最初に確認したいこと
患者から薬について相談されたとき、最初から個別の医薬品情報を調べ始めると、相談の本当の目的を見落としてしまうことがあります。
同じ「この薬を飲んでいて大丈夫ですか」という質問でも、妊娠を希望している時期や、患者が心配している内容はさまざまです。
薬の情報を見る前に、まずは患者の置かれている状況と不安の内容を具体的にしていきましょう。
妊娠を希望する時期や現在の状況を確認する
「妊活中」といっても、その状況は一人ひとり異なります。
最近妊娠を考え始めた人もいれば、近いうちに妊娠を希望している人、不妊治療を受けている人もいます。相談時点ですでに妊娠の可能性がある場合もあるでしょう。
まずは患者さんが話せる範囲で、現在どのような状況なのかを下記のように確認していきます。
- 妊娠を考え始めた段階なのか
- すでに妊活を始めているのか
- 妊娠の可能性があるのか
- 不妊治療などで医療機関を受診しているのか
ただし、年齢や婚姻状況などから妊娠希望を推測して質問するのは避けましょう。
妊娠や不妊に関する話題は非常にプライベートな内容であり、患者が話した相談内容を起点に必要な範囲を確認することが大切です。
患者さんが薬について何を不安に感じているのか確認する
「薬が心配」という一言にも、患者さんによって様々な意味があります。
「今飲んでいる薬が将来の妊娠に影響しないか」という不安かもしれません。「妊娠した場合に赤ちゃんへ影響するのではないか」「持病の薬をやめられないことが心配」と考えていることもあります。
以前使用していた薬について、「あの薬を飲んでいたことは問題ないでしょうか」と相談される場合もあるでしょう。
このような時は次のように患者の不安を具体的にしていきましょう。
「どの薬について気になっていますか」
「どのような影響を心配されていますか」
「薬について何か説明を受けたことはありますか」
相談内容が明確になれば、薬剤師が確認すべき情報も見えてきます。
患者さんが「薬をやめたい」と話している場合も、最初から中止方法の話へ進むのではなく、なぜやめたいと思っているのかを聞くところから始めましょう。
不安の内容を具体的にできれば、どの情報を確認すべきか、処方医へ何を伝えるべきかも見えてきます。
妊活中に使用している薬と治療背景を確認する
相談の背景が見えてきたら、次は患者さんが実際に使っている薬と、その治療について整理していきます。
何のために使っているのか。どのくらい治療を続けているのか。現在も処方どおりに服用しているのか。
薬と治療の状況をあわせて見ることで、妊活・妊娠前の服薬について処方医と相談する際に必要な情報がそろってきます。
処方薬・市販薬・サプリメントまで確認する
最初に把握しておきたいのは、患者さんが現在使っているものの全体像です。
目の前の処方箋に載っている薬だけでなく、ほかの医療機関から処方されている薬があるかもしれません。市販薬を日常的に使っていたり、妊活をきっかけにサプリメントを取り入れていたりすることもあります。
対象として考えたいのは、主に次のようなものです。
- 現在の処方薬
- 他院から処方されている薬
- 市販薬
- サプリメントや健康食品
患者さんにとって、サプリメントや健康食品は「薬ではない」という認識かもしれません。
そのため、「ほかに薬はありますか」と尋ねるだけでは、使用しているものを十分に把握できないことがあります。
薬の使用目的と基礎疾患・治療状況を確認する
薬剤名がわかったら、次に知りたいのが「何の治療で使っているのか」です。
妊娠への影響に意識が向きすぎると、「その薬を使わなくなった場合にどうなるのか」という視点が抜けてしまうことがあります。
たとえば持病の治療を続けるために欠かせない薬であれば、自己判断で中止したことで症状が悪化する可能性があります。
そこで、薬剤名とあわせて、
- どの疾患や症状に対して使用しているか
- どのくらい治療を続けているか
- 現在どのような治療を受けているか
- どの医療機関・診療科で治療を受けているか
といった情報も質問しておきましょう。
処方医へ相談する際にも、「何を飲んでいるか」だけでなく、「何の治療で使っているか」がわかれば、患者の状況を共有しやすくなります。
自己判断で中止・減量していないか確認する
妊娠への不安が強い患者さんは、薬局へ相談する時点ですでに服用方法を変えている場合があります。
「毎日は飲まないようにしています」
「妊娠しているかもしれないと思って、昨日からやめました」
こうしたケースでは、処方されている用法・用量だけを見ても、現在の服用状況はわかりません。
処方どおりに使っているのか、飲まなくなった薬はないか、量や回数を変えていないか。実際の服用状況まで把握しておく必要があります。
自己判断による変更があった場合には、注意することだけを目的にしない方がよいでしょう。「なぜ変えようと思ったのか」という背景に目を向けると、患者が抱えている不安が見えてきます。
「妊娠したら薬は飲めないと思っていた」「ネットで怖い情報を見た」という思いがあれば、その不安も含めて処方医へつなぐことができます。
妊活・妊娠前の服薬相談を処方医や専門的な相談先につなげる
ここまで情報がそろったら、次に考えたいのが「誰と共有するか」です。
妊活・妊娠前の服薬相談では、薬剤師だけで薬の継続や中止を決めるのではなく、必要に応じて処方医へ情報をつなぎます。
患者さんが治療を受けている場合は、妊娠希望を処方医と共有できているかを確認し、必要に応じて相談を促しましょう。より専門的な情報が必要な場合には、妊娠と薬に関する相談体制を活用できることも知っておきたいところです。
妊娠希望を処方医に伝えているか確認する
持病の治療を受けている患者さんでも、妊娠を希望していることが処方医に伝わっていない場合があります。
「まだ妊娠していないので、伝える必要はないと思っていた」
「薬を変えられるのが怖くて言えなかった」
こうした事情が隠れていることもあるでしょう。
妊娠希望について処方医とすでに話しているかがわからなければ、その点を確かめておきたいところです。まだ共有されていない場合には、自己判断で薬を変更する前に、現在の治療と妊娠希望について処方医へ相談するよう案内しましょう。
妊娠希望を伝えたからといって、必ず薬が変更・中止になるわけではありません。
患者さんが「相談したら薬を全部やめることになる」と受け取らないよう、現在の治療も含めて医師と検討するための相談であることを伝えるとよいでしょう。
必要に応じて「妊娠と薬情報センター」などの相談先につなげる
個別の薬剤と妊娠について、より専門的な情報が必要になることもあります。
国立成育医療研究センター内には「妊娠と薬情報センター」が設置されており、妊娠中や妊娠を希望する女性の薬に関する相談に対応しています。全国の拠点病院でも「妊娠と薬外来」が設けられています。
厚生労働省も、妊娠中や妊娠希望の人から服薬について相談を受けた際は必要に応じて妊娠と薬情報センターやその拠点病院を紹介するよう医療従事者向けに案内しています。
ただし、すべての服薬相談を専門機関へつなげればよいわけではありません。処方医との相談で対応できるケースもあります。
また、相談の申込み方法や対象、費用などには決まりがあります。薬剤師が紹介する場合は、最新の公式情報を確認したうえで案内することが大切です。
薬局で患者の状況を確認し、必要な場合に専門的な相談先があることを知っておくことが、安心して次の支援につなげるための選択肢になります。
プレコンセプションケアの服薬支援をさらに深く学ぶには
ここまで、妊活・妊娠前の薬について相談された際に、薬剤師がどのような情報を押さえておきたいかを見てきました。
患者さんが何を心配しているのかを知り、使用している薬や治療の状況、実際の服用方法を整理する。必要な情報がそろったら、処方医や専門的な相談先へつなげる。
こうした相談の流れを理解していても、実際の現場では下記のようなさらに難しい判断に直面します。
- 妊活前に見直しが必要な薬をどう考えるのか
- 催奇形性リスクに関する情報をどう評価するのか
- 要避妊薬の「確実な避妊」や「避妊期間」をどう読むのか
- 妊婦禁忌解除をどのように理解するのか
- 男性が使用している薬について何を確認するのか
- がん治療中・治療後の患者へどう関わるのか
- 不妊治療の処方箋で何を確認するのか
こうしたテーマでは、プレコンセプションケアの基本だけでなく、薬剤や疾患、治療内容に応じた専門的な知識も必要になります。
「調剤と情報 2026年9月号(Vol.32 No.11)」では、「薬局が地域の未来のためにできること——プレコンセプションケア 妊活・妊娠前からの健康管理」を特集しています。
妊活前の「やめる薬・見直す薬」、要避妊薬服用患者への対応、緊急避妊薬、葉酸・ワクチン・栄養管理、妊婦禁忌解除、男性のプレコンセプションケア、がん治療中・治療後患者、不妊治療、コミュニケーションと連携など、薬局で判断に迷いやすいテーマが取り上げられる予定です。
個別の薬をどう考え、患者への支援につなげるのかをさらに深く学びたい方は、ぜひご覧ください。
調剤と情報 2026年9月号(Vol.32 No.11)
特集 薬局が地域の未来のためにできること——プレコンセプションケア
妊活・妊娠前からの健康管理
不妊治療の保険適用拡大や緊急避妊薬のOTC化により、生殖や妊娠準備に関わる相談が薬局に持ち込まれる機会は確実に増えています。
本特集では、プレコンセプションケアを軸に、薬局が妊活前から関わるために必要な薬学的知識と実践的なアプローチを整理します。
まとめ
妊活・妊娠前の薬について相談されたときは、薬の名前や妊娠への影響だけを確認するのではなく、患者が何を心配しているのか、どのような治療を受けているのかまで把握することが大切です。
現在使用している処方薬や市販薬、サプリメントを確認するとともに、薬の使用目的や基礎疾患、実際の服用状況にも目を向けます。妊娠への不安から、患者が自己判断で中止・減量していないかも確認したいポイントです。
個別の薬剤について専門的な情報が必要な場合には、妊娠と薬情報センターなどの相談先を案内できることも知っておくとよいでしょう。
プレコンセプションケアにおける薬剤師の役割は、その場で薬の継続・中止を決めることではありません。患者の不安と服薬状況を丁寧に確認し、必要な情報を整理して適切な相談につなげることが、妊活・妊娠前から患者を支える一つの方法です。
参考サイト
- 「妊娠と薬」 .厚生労働省
- 「妊娠と薬について知りたい方へ」 .国立成育医療研究センター 妊娠と薬情報センター
- 「『プレコンセプションケア』とは? 未来のために今知っておきたいこと」 .こども家庭庁