生薬・漢方薬を学ぶおもしろさ――生薬の凄さを知るために

前回のエッセイ『生薬・漢方薬を学ぶおもしろさ 薬剤師にとって漢方薬は戦う相手なのか』では、海洋天然物をいじっていた自分が、どのようなプロセスで漢方や生薬にのめり込んでいったか、正式には生薬の偉大さを知るに至った過程をつらつらと述べてみたが、第2回(最終回!)では、それをどのように上手にかつ楽しく学べばいいのかということについて、私見を書いてみたい。
難解な「添付文書」で挫折していませんか?
前回も書いたが、「生薬学」は薬学部で必ず学習する科目であり、どの世代の薬剤師でも生薬について知らないわけではない。しかし、学習するということと、その知識を活用しているかということは全く別問題である。多くの薬剤師は、生薬学の授業で詰め込んだ知識を、試験終了とともに忘却の彼方に追いやっているのではないかと思う。もちろん、授業で興味を持ってさらに勉強を続けている方もいるだろうが、稀な存在だと言わざるを得ない。ただし、実臨床では常に漢方薬に触れる機会があるため、薬局のカウンターで「もっと勉強しておけばよかった……」と思っている薬剤師は少なくない。そのような薬剤師にとって、タイパ(時間対効果)やコスパ(費用対効果)を考えながら漢方薬をいかに楽しく学ぶかということは大変重要なテーマであり、私が『生薬の働きから読み解く 図解 漢方処方のトリセツ』を執筆するに至ったきっかけでもある。
研究の一環として、薬剤師の漢方薬に対する意識調査を行ったことがある(川添和義 他, 医療薬学 35 (5) 351-359, 2009)。臨床に携わっている徳島県在住の薬剤師を対象として、漢方の好き嫌い、得意不得意や、どのように漢方の勉強をしているのか等の項目についてアンケート調査をしたものだ。その結果はとても興味深いもので、漢方が「得意」と答えた薬剤師は書籍や講演会を情報源としているのに対し、「得意ではない」「嫌い」という薬剤師ほど添付文書に頼っている実態が見えてきた。添付文書は医薬品にとって非常に重要であるが、こと漢方薬に関しては、それだけで理解するのは極めて難しい文書でもある。例えば、効能・効果の内容は病名で例示されているものの、それらの関係性については全く触れられていない。小児や妊婦に対する利用についても納得のいく説明が見当たらず、副作用に関する情報はあるものの、相互作用に関する情報はほとんどない。また、保険適用できる範囲を超えて利用しているケースが多いということは多くの薬剤師が知っているところであるが、それは当然のことながら添付文書には反映されていない。つまり、添付文書だけを見ていても漢方薬の本質はわからないということである。前述のアンケートからわかったのは、漢方薬が苦手と思っている人ほど、この難解な添付文書で何とかしようとしている、つまり「より高い壁」で漢方を理解しようとしているという皮肉な現実だ。これでは、学ぶ気力も起こらなければ漢方の面白さもわからない。
楽しく学ぶなら「急がば生薬」、解法の鍵は「学会」にあり
前回、漢方薬は生薬の働きから考えるのが一番理解しやすいということを書いたが、まさに苦手意識のある薬剤師には、「生薬」を学ぶところから漢方薬に入ってほしいと考えている。遠回りのイメージがあるが、「急がば回れ」である。生薬の働きを知って漢方処方の成り立ちを考えると、生薬の凄さがわかってくること間違いなしである。
では、どのように生薬を学ぶのか。それは、少し面倒かもしれないが、漢方薬が学べる場に足を運ぶことである。漢方メーカーがやっている勉強会でもいいし、オンラインの講演会でもいい。処方の使い方や症例、生薬の使い方などが学べるはずである。ただ、いずれも決まったテーマを決まった時間に視聴しないといけないし、多くても1回で2つくらいの話しか聞けない。また、症例ばかりだと生薬については学びにくいという側面もある。
その点、学会の学術集会はやや参加費は高めだが、非常に多くのトピックスが扱われるため、まるでウインドウショッピングをするように、興味があるテーマを自分のペースで自由に視聴できるのが最大のメリットだ。現在、わが国にはいくつかの漢方関連学会による学術集会があるが、最も臨床に近いのが主に漢方医を中心とした「日本東洋医学会学術総会」である。多くは症例や臨床経験の報告であり、生薬について学べる話題はやや少ない。逆に、最も基礎的な話題が中心になっているのが「日本生薬学会年会」である。こちらは薬剤師や薬学研究者が中心で、生薬・漢方薬の成分や薬理など基礎的なところを学ぶにはとてもよい学会であるが、臨床的な話題はやや少ない。この2つの学会の良いとこ取りをした学術集会こそが、「和漢医薬学会学術大会」である。
基礎と臨床を繋ぐ「生薬のチカラ」:第43回和漢医薬学会学術大会の見どころ
一般社団法人 和漢医薬学会は、和漢薬の研究者と臨床家が多面的に科学的な視点から意見交換をすることで、「基礎と臨床の橋渡し」となるべく使命をもって発足した学会であり、第1回目の学術大会は1984年、富山で開催された。これ以来、42回にわたって毎年開催されてきて、今年は43回となる。コンセプトにあるように、医学・薬学の基礎研究者と、医師・薬剤師の臨床家とが一堂に会して互いに研鑽することを目的としている。その中で生薬は非常に重要なものであり、この学術大会では生薬に関する多くの演題やシンポジウムで、基礎と臨床の両面から学ぶことができる。
特に今年の大会は、不肖、私が大会長として「生薬」を中心とした「第43回和漢医薬学会学術大会」を東京・品川で開催するべく準備している。メインテーマは「生薬のチカラ~和漢薬から食卓まで~」であり、生薬の凄さを臨床、基礎の両面から知ってもらいたいという想いが込められている。もともとこの学会は生薬についての話題が多い学会ではあるが、今回はさらに生薬に焦点を当てることで、これまで生薬について学びたかった薬剤師や医師に、楽しく学んでいただけるような場を設けたいと考えている。今回のテーマには、生薬は決して漢方薬の専売特許ではなく、食卓をはじめとした身近なところにたくさんあるということを知っていただきたいという意味も込められていて、知ることでさらに生薬の面白さ、力強さが実感できるはずである。
今回の学術大会で実施される内容を一部紹介すると、シンポジウムでは薬膳やアロマを取り上げて、生薬の可能性を味覚や香りで感じてもらいたい。また、大学にある薬用植物園が生薬の学びに重要な意味を持つこと、さらに薬用植物と生薬の研究の最前線もご紹介したい。より臨床に近いセッションとしては、美容医療や発達障害、頭痛治療における生薬について深く考察していく。今回、実行委員長として徳島の女性クリニック院長である高橋浩子先生にお願いし、クリニック視点、女性視点での企画も作成していただいた。例えば、午後のひととき、お茶とお菓子をいただきながら楽しい話や情報交換ができるスイーツセミナー、女性医師によるディスカッションなどを用意している。また、生薬をより深く勉強できる「医師・薬剤師のための漢方教育基礎講座」では、生薬の働き、すなわち「薬能」について知る講座や、中医学で使われる生薬に関する講座が開かれる。これら以外にも、市民講座として世界的なアスリートを治療してきた医師に腰痛治療に関して教えていただく予定だ。
学会の敷居は高くない! 身構えずに語り合おう
漢方薬の学習をやってみたがうまくできなかった、あるいは漢方薬は面倒だと思っている薬剤師は少なくない。しかし、「学会」だからといって身構える必要は全くない。専門家だけが殻にこもる場ではなく、むしろ「これから学びたい」「苦手意識を克服したい」という方にこそ、気軽に足を運んでいただきたいのだ。敷居は決して高くはない。生薬の凄さを知っていただくことで、漢方薬に対する見方は一新するものと思う。また、生薬の新しい一面を発見することができるはずだ。暑い時期ではあるが、ぜひともノージャケット、ノーネクタイのカジュアルな服装でご参加いただき、多くの方と楽しく語り合っていただきたい。昭和医科大学上條記念館で、皆様とお目にかかれることを心より楽しみにしている。
第43回和漢医薬学会学術大会
・日時:令和8年8月22日(土)・23日(日)
・場所:昭和医科大学上條記念館(東京都品川区旗の台1丁目1-20)
https://www.m-toyou.com/wakan43/
昭和39年1月29日大阪市生れ。昭和58年徳島大学薬学部薬学科入学。
平成4年大阪大学大学院薬学研究科薬品化学専攻博士後期課程修了、博士(薬学)。
平成4年福山大学薬学部天然物化学講座助手。
平成6年徳島大学薬学部生薬学講座講師。
平成17年徳島大学医学部臨床薬剤学講座助教授、徳島大学病院副薬剤部長。
平成27年徳島大学大学院医歯薬学研究部臨床薬学実務教育学教授。
平成29年より昭和大学(現:昭和医科大学)薬学部臨床薬学講座天然医薬治療学部門教授。
2026年8月に開催される第43回和漢医薬学会学術大会において大会長を務める。