これからのグローバル製薬産業における競争軸―グローバル大手製薬企業15社の多面的分析①―

GLP-1作動薬の市場が飛躍的に拡大し、新薬市場全体の成長とともに企業間の順位にも大きな変化が見られた2025年のグローバル製薬産業。各社が革新的新薬の創出にしのぎを削る中、これからの企業価値を左右する競争軸はどこにあるのか─。本書「主要製薬企業の動向」著者で、約半世紀にわたり製薬産業を見つめ続けてきたファーマセット・リサーチ株式会社代表取締役の三島茂氏にお話を伺いました。

編集担当
まず、2025年のグローバル製薬企業動向の分析から、特に注目される点についてお伺いします。

三島氏
2025年は企業の売上成長率に大きなばらつきが見られ、特にGLP-1作動薬を中心とした革新的医薬品の拡大により、リリーやノボ ノルディスクが急速な成長を遂げたことが注目されます。これは製薬企業の競争軸が「売上規模」から「研究能力」へと転換していることを象徴しています。
とくに前年に初めてトップ10入りし9位となっていたリリーは、わずか1年で売上を450億ドルから650億ドルへと200億ドル拡大し、売上高1位に躍り出ました。この躍進は単一製品の成功によるものではなく、代謝領域における長期的な研究基盤に支えられた継続的な創薬力が、治療パラダイムを革新し、新たな巨大市場を創出した結果といえます。
とくに前年に初めてトップ10入りし9位となっていたリリーは、わずか1年で売上を450億ドルから650億ドルへと200億ドル拡大し、売上高1位に躍り出ました。この躍進は単一製品の成功によるものではなく、代謝領域における長期的な研究基盤に支えられた継続的な創薬力が、治療パラダイムを革新し、新たな巨大市場を創出した結果といえます。


三島氏
同時に、トップ5の「最大手」企業では売上規模の拡大が一段と進みました。4位のロシュまでが600億ドルを超え、2020年には存在しなかった「600億ドル企業」が2025年には4社に達するなど、業界全体のスケールが一段と引き上げられています。
一方で、11位から15位の「準大手」企業では、成長の足取りにばらつきが見られます。主力製品の特許満了の影響を引きずる企業や、製品構成が成長市場と十分に合致していない企業もあり、構造的な課題が浮き彫りになっています。
一方で、11位から15位の「準大手」企業では、成長の足取りにばらつきが見られます。主力製品の特許満了の影響を引きずる企業や、製品構成が成長市場と十分に合致していない企業もあり、構造的な課題が浮き彫りになっています。

編集担当
「売上規模」から「研究能力」へ競争軸が転換しているとは、どのようなことでしょうか。

三島氏
2025年に急速な成長を遂げたリリーやノボ ノルディスクに代表されるように、企業売上高ランキングは固定的なものではなく、継続的な創薬力によって変動する構造が明確に浮かび上がっています。さらに企業価値(時価総額)との関係を分析すると、売上順位とは必ずしも一致せず、成長率や研究基盤の強さとより整合的であることがわかります。このことから、資本市場は売上規模だけでなく、将来の創薬力や成長性を評価した企業価値の形成に移行していると考えられます。

編集担当
こうした企業価値を分析する指標としてはどのような見方があるのでしょうか。

三島氏
今回、私は企業の価値創出力を「価値創出率(営業利益+研究開発費÷売上高)」および「研究効率(営業利益÷研究開発費)」という2つの指標で分析しました。その結果、製薬企業の競争力は、研究投資の規模そのものではなく、その効率と持続性の組み合わせによって特徴づけられることが明らかになりました。先ほど例に挙げたリリーやノボ ノルディスク、またギリアドは「高価値創出・高研究効率」の領域に位置し、他社と一線を画しています。これらの企業に共通するのは、特定領域における技術プラットフォームを確立し、継続的に新薬を創出している点です。


三島氏
一方、従来型のブロックバスター製品に依存する企業では、特許満了による業績変動の影響を受けやすく、研究投資が継続的な価値創出につながりにくい傾向が見られます。この構造変化は、製薬企業の価値評価の軸が「売上規模」から「研究能力」へと移行していることを示しています。

編集担当
グローバル製薬企業のタイプが分かれてきているということでしょうか。

三島氏
今回の分析から、製薬企業は大きく2つのタイプに分化しつつあると考えています。一つは技術プラットフォーム型企業、特定の領域において研究基盤を確立し、継続的に新薬を創出できる企業です。たとえばリリー、ロシュ、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)などが該当します。もう一つはポートフォリオ依存型企業、特定の大型製品に収益を依存する企業です。売上規模は大きいものの、長期的な成長性には一定の制約があります。メルク、ファイザー、BMS、サノフィなどが該当します。
今後の製薬産業においては、・研究投資の効率性、・技術プラットフォームの確立、・持続的な新薬創出能力、といった指標が企業価値を左右する最も重要な要因になると考えられます。
今後の製薬産業においては、・研究投資の効率性、・技術プラットフォームの確立、・持続的な新薬創出能力、といった指標が企業価値を左右する最も重要な要因になると考えられます。

編集担当
ありがとうございました。次回はこの2つのタイプの特徴と今後の展望について、さらにお話を伺っていきたいと思います。