これからのグローバル製薬産業における競争軸―グローバル大手製薬企業15社の多面的分析③―

GLP-1作動薬の市場が飛躍的に拡大し、新薬市場全体の成長とともに企業間の順位にも大きな変化が見られた2025年のグローバル製薬産業。各社が革新的新薬の創出にしのぎを削る中、これからの企業価値を左右する競争軸はどこにあるのか─。本書「主要製薬企業の動向」著者で、約半世紀にわたり製薬産業を見つめ続けてきたファーマセット・リサーチ株式会社代表取締役の三島茂氏にお話を伺いました。

編集担当
前回まではグローバル製薬産業の「プラットフォーム型」と「ポートフォリオ依存型」の違いについてご解説いただきましたが、今回は「資本市場は企業の成長をどこで見ているか、企業の価値創出力」についてお話を伺っていきたいと思います。下に「企業成長を決める構造の概念図」をお示しいただきましたが、まずこの概念図について教えてください。

三島氏
この概念図は、横軸に「価値創出率(収益性)」、縦軸に「研究効率(投資に対するリターン)」をとり、製薬企業の競争力を可視化したものです。右上に位置するほど、高付加価値かつ高効率な「プラットフォーム型」の成長を遂げていることを示しています。興味深いのは、短期的な収益を優先したり、特定の大型新薬に頼る「ポートフォリオ依存型」など、企業の戦略的特徴がこの分布に明確に現れている点です。


編集担当
概念図の右上と左下のグループでは、研究開発や成長にどのような違いがあるのでしょうか。

三島氏
右上の「最上位グループ」は、M&Aを自社の専門領域に限定し、財務負担を抑えつつ研究基盤を強化しています。その結果、投資が継続的な価値創出に繋がる好循環が確立されています。一方で、左下の領域に位置する企業群は、巨大なM&Aに伴う無形資産の償却負担などにより原価率が高止まりし、構造的に成長が困難な状況に陥っている可能性があります。

編集担当
次に、時価総額と価値創出額を比較した「二重円」の図についてお伺いします。これらの円の大きさからどういったことが読み取れるのでしょうか?

三島氏
外側の円(時価総額)が内側の円(価値創出額)を大きく上回っている場合、その差額は市場が将来に対して支払っている「株価プレミアム」を意味します。たとえば、時価総額が実力の20倍以上に達しているような企業は、現在の稼ぎ以上に「次世代の創薬プラットフォーム」への期待が極めて大きいということです。逆にこの倍率が低い企業は、将来の減収リスクや収益性の低さを市場に指摘される可能性があります。


編集担当
市場の評価である時価総額は、実際の売上成長よりもかなり先行しているということでしょうか。

三島氏
その通りです。ある成長企業の事例では、売上順位が首位になる約2年も前に、時価総額で世界首位に到達していました。これは、資本市場が単なる過去の業績ではなく、将来の製品を生み出す「源泉」を先行して評価しているためです。市場、言い換えれば投資家は、製品が上梓されるかなり前の段階で、企業の研究開発基盤が「本物」かどうかを判断していると言えます。

編集担当
最後に、今回の分析から導き出される、製薬企業における成長性の決定要因を教えてください。

三島氏
企業価値を決めるのは売上規模そのものではなく、その売上をどれだけ効率的に、かつ継続的に生み出せる「基盤の質」にあることが、市場の評価によって改めて証明されました。今後、製薬企業が生き残るためには、製品という「点」の成功ではなく、プラットフォームという「線」の競争力をいかに磨くかが問われることになるでしょう。

編集担当
貴重なお話ありがとうございました。