2026.02.20

「ガイドライン」から「手引き」へ、現場の“マイナス”を防ぎ続けるために、いま繋ぐべきこと

 2013年の「ICU感染防止ガイドライン 改訂2版」刊行から13年。医療環境の変化やCOVID-19を経て、国公立大学病院集中治療部協議会が満を持して送り出すリニューアル版「ICU感染管理の手引き2026」。
 なぜいま、「ガイドライン」ではなく「手引き」なのか。そこに込められた意図と、感染管理という領域に対する想いを、編集を務めた志馬伸朗先生(広島大学大学院医系科学研究科救急集中治療医学)に伺いました。

「防止」から「管理」へ。包括的な視点への転換


――「ガイドライン」から13年ぶりの刷新となります。今回、単なる改訂ではなく「リニューアル」と銘打った最大の理由は何だったのでしょうか。

 前版のタイトルは「ICU“感染防止”ガイドライン」でした。しかし、実際のICUにおける感染管理というものは、「予防」だけではありません。感染症の診断や治療、さらには施設全体の管理なども含まれてきます。今回のリニューアルでは、そうした周辺領域までをより広く包括し、かつ実践的な内容にするのが良いのではないかと考えました。


――具体的に、どのような点が追加・更新されているのでしょうか。

 やはりCOVID-19流行を経て、新興・再興感染症への対応や、感染予防策の概念が臨床現場でも普及・確立してきましたので、その点はしっかりと追記しています。 また先ほど申し上げたとおり、単なる予防策にとどまらず、診断・治療・施設管理まで含んだ幅広い内容にアップデートした点が、一番の変更点といえるでしょう。



あえて「厳密さ」を捨て、「使いやすさ」を選んだ


――今回、書名が「ガイドライン」から「手引き」へと変更されました。ここにはどのような意図があるのでしょうか。

 本来、「ガイドライン」と呼ばれるものは、日本医療機能評価機構(Minds)などが提唱する手法に則り、厳密に作成・評価されたものであるべきです。しかし、それを作成するには膨大な人手と資金、そして時間を要します。われわれの協議会で作るものは、そうした大仰なガイドラインではなく、あくまで「国公立大学病院集中治療部協議会」メンバーの有志による、客観的意見のまとめでよいと考えました。


――現場での「実用性」を重視されたわけですね。

 そのとおりです。超厳密ではないものの、クリニカルエビデンスをそれなりに網羅し、かつ実践的であること。わかりやすく、使いやすく、そして信頼できるものを目指すことこそが、いまの現場にとって得策であると考え、「手引き」という形に落ち着きました。



多職種で守るICUのために


――本書は医師だけでなく、コメディカルの方々もターゲットにされていると伺いました。

 協議会には看護部会もありますので、看護師さんをはじめとする多職種の方にも使っていただけるよう、できるだけ平易で見やすいものを目指したつもりです。残念ながら今回、看護師さんご本人による執筆は叶いませんでしたが、感染制御部を兼任されている医師や、編集協力として名古屋市立大学感染症科の伊東直哉先生にも加わっていただき、感染症的な知識や記述の強化に努めました。職種を問わず、チーム医療の共通言語として活用していただければと思います。



制限時間内に「たすき」を渡すこと


――序文の「繋ぐのだ」という言葉が印象的でした。ここにはどのような想いが込められているのでしょうか。

 正直にいえば、そこまで個人的な強い思いがあるわけではありません(笑)。ただ、それなりに歴史のある協議会ですし、この本は協議会が残してきた唯一の書籍でもあります。10年くらいのスパンでリニューアルして継続していくことは、伝統の継承という意味で必要かな、と感じた次第です。熱い想いというよりは、とりあえず制限時間内に「たすき」を落とさないよう、次の世代へ渡せる状態にした、という感覚に近いですね。



「成果が見えにくい」領域で奮闘する方へ


――最後に、現場で感染対策に取り組む方々へメッセージをお願いします。

 ICUにおける感染管理というのは、マイナーな領域であり、関心を持つ方もそう多くはありません。なぜなら、感染管理はやってもあまり「プラス」になることはなく、「マイナスにならないように」頑張り続ける仕事だからです。医療従事者からすると、成果ややりがいが見えにくい領域なのだと思います。
 しかし、患者さんにとっては極めて重要な事柄です。成果が見えにくくても、くじけずに日々関心を持ってやり続けるしかありません。
 すべてのICUに関わる医療従事者の方には、最低限の標準知識を得るために、本書に一度は目を通していただきたいと思います。ただ、これはあくまで「手引き」に過ぎません。興味を持たれた方は、そこから参考文献やより詳細な書籍へと進み、知識を深掘りしていってください。

ICU感染管理の手引き2026

定価3,520円(本体3,200円+税10%)

「ガイドライン」の精神を繋ぎ、現場の実践へ。時代に即した、新しいICU感染管理の手引き

「ICU感染防止ガイドライン 改訂第2版」の刊行から13年。時代の要請に応えるべく、全国国公立大学病院集中治療部協議会が満を持して送り出すリニューアル版です。推奨ランクなどを定めた形式的な「ガイドライン」の枠を超え、現場での実用性を重視した「手引き」として再構築。医師・看護師に加え、薬剤師など多職種連携が進む現在のICUに対応すべく、若手執筆陣を中心に最新知見を網羅しています。 先人たちが築き上げた感染対策の文化を次の世代へ「繋ぐ」とともに、現場の「今」に即した新たな道標を示す1冊です。

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