在宅医療が、薬剤師にとって「特別なもの」ではなくなるとき。その“時”を見据えて現場を支え続ける。

在宅医療の現場で活躍する薬剤師を支える一般社団法人全国薬剤師・在宅療養支援連絡会(以下、J-HOP)。そんなJ-HOPが、2月22日に南関東ブロックの研修会「心不全パンデミックに備える~多職種連携で日々の暮らしを支えよう~」を開催いたしました。
在宅医療の質を左右するキーマンとして薬剤師の存在感が高まる中、J-HOPがどのようにして現場の薬剤師を支え、そしてこれからも支え続けるか、小林輝信会長にその想いを伺いました。
――本日は貴重なお時間をいただきありがとうございます。はじめに、J-HOPとは一体どういった団体なのか、ご紹介いただけますでしょうか?
私たちJ-HOPは、研修等を通じて在宅医療の質の向上や持続可能な地域包括ケア体制の構築を目指している団体です。会員数は約1,300名ぐらいで、実際に在宅医療を行っている薬剤師のほかに、これから在宅医療をやりたいと考えている方、在宅医療に興味がある方、あとは病院薬剤師やドラッグストアの薬剤師、医師やケアマネージャーなども参加している、大変裾野の広い団体です。
J-HOPは全国を10ブロック(北海道・東北・北関東・南関東・甲信越・北陸・東海・近畿・中国四国・九州沖縄)に区分し、そのブロック単位で地域のニーズに沿った研修会や勉強会を行っています。これらの開催頻度も高く、毎月、どこかのブロックで何かしらの会が開催されているといった、とても活動的な団体です。
患者さんにとって、「医療」は最優先事項ではないこともある
――J-HOPとして大切にしている想いや考え方などがありましたら教えてください。
私たちが大切にしていることは、単なる「在宅医療」の提供ではなく、患者さんの「在宅療養生活を支える」という視点です。実は、在宅で過ごす患者さんやご家族にとって、私たち医療職が考えているほど、生活の中で「医療」が重要でない場合があります。
よくよく考えてみると、患者さんの視点でみれば、月に2回ほど医師が来て、それにあわせて薬剤師も来る。それよりも高い頻度で訪問看護師が家に来ますが、ヘルパーさんや介護職の方はもっと高い頻度、週に3~4回ほど家に来るわけです。こうして比較すると、医師や薬剤師の訪問回数は限られていますよね。
医療を中心に患者さんがいるのではなく、患者さんは日常生活の中にいらっしゃいます。こうした現実を考えると、より患者さんの生活によりそった医療の形、「在宅で医療を行う」というよりも「在宅での療養生活を支える」といった考え方の方が、より患者さんとご家族のニーズに沿った医療になるのではないかと考えています。
言葉を変えると、今までの在宅医療は“治す医療”でしたが、医療の提供だけでなく、生活を支えるという側面を含めた、“治し、支える医療”という形で考えていった方がよい時期になってきているのではないかと思います。
迷いながら進む、薬剤師たちの背中を押す場になっていると感じています
――J-HOPでは、今まで色々なテーマで勉強会・研修会を開催してこられたかと思います。会長として、何か手応えを感じられていらっしゃる部分はありますか?
各ブロックの研修会等で取り上げるテーマは本当にさまざまで、心不全や認知症といった疾患の勉強会もあれば、嚥下障害などの病態、在宅での症例、栄養管理、災害対応や生成AIの活用術など、多岐に渡るテーマを扱っています。
在宅医療の現場では、薬局内とは異なり、薬剤師が一人で判断を迫られる場面が多々あります。「誰に聞いていいかわからない」、「自分のやり方が合っているのか不安」といったマンパワーの限界や孤独感は、多くの在宅薬剤師が抱える共通の悩みだと思います。研修会を通じて、経験豊富な先輩たちの意見を聞くことで、参加者が「今まで自分なりに調べてやってきたことが正しかったのか」を確信し、スキルを伸ばしていく姿に手ごたえを感じています。単なる知識の習得だけでなく、迷いながら進む薬剤師たちの背中を押している場になれていると感じています。
皆さんからいただいた質問に、私が電話でお答えることもあります
――J-HOPが運営しているメーリングリストが大変ご好評だということを伺いました。あらためて、メーリングリストの特徴や強み等をお聞かせください。
先ほど申し上げた通り、在宅医療の現場に飛び込んだ薬剤師が最初に直面するのは、「この判断で合っているのだろうか?」という不安と、「相談できる相手が周囲にいない」という孤独感です。そんな悩みを抱えている在宅薬剤師たちの強い味方となっているのが、J-HOPが運営するメーリングリストです。
J-HOPのメーリングリストには、在宅医療に携わる全国の薬剤師が参加しており、日々活発な情報交換が行われています。このメーリングリストの最大の強みは、現場の切実な悩みをリアルタイムで共有し、全国の経験豊富な薬剤師からアドバイスをもらえる点にあります。質問をして1時間もあれば4~5件の回答はありますし、私ももちろんお答えします。メーリングリストで回答するのが憚られる内容の場合、(ご質問にご連絡先が載っていれば)直接お電話で回答させていただくこともあります。
在宅医療は、薬局内での調剤業務とは異なり、患者さんの自宅という空間で、自分1人だけで判断を下さなければならない場面が少なくありません。「誰に聞いていいかわからない」という状況は、薬剤師にとって大きなプレッシャーとなります。メーリングリストは、こうした「マンパワーの限界」を感じている薬剤師にとっての手助けになれていると実感しています。
――最後に読者へメッセージをお願いいたします。
在宅医療は、今はまだ「一部の熱心な薬剤師が身を粉にしてやる、辛くて大変な仕事」と見られることもあるかもしれません。しかし、在宅医療が「薬局の通常業務」の1つとして扱われる未来はそう遠くないと感じていますし、また、在宅医療を特別視しない社会になっていかなければならないと考えています。
在宅医療が薬剤師にとって「特別なもの」ではなくなったとき、J-HOPがそのスキルや知識、行動規範、業務への考え方などを伝え続けられるような、そんな団体でありつづけたいと思っています。少しでも興味を持たれた方がいらっしゃれば、ぜひ仲間に入っていただければ嬉しいです。