【刊行記念特別インタビュー】 臨床現場の「なぜ?」を研究の種に。初学者の「伴走者」となる一冊を目指して

『月刊薬事』の大人気連載が、大幅なブラッシュアップを経て『臨床現場の「なぜ?」を誰でも研究にできる本 すべての医療従事者のための臨床研究スタートガイド』として書籍化されました。本書に込めた想いと最大の読みどころについて、編著者である村木優一先生にお話を伺いました(写真左は著者の豕瀬諒先生)。
――本書は人気連載をベースにされていますが、今回、一冊の本にされた最大の理由や狙いをお教えください。
連載時は、多くの読者の方から「臨床研究が少し身近に感じられた」、「自分でも挑戦してみたいと思えた」という嬉しいお声をいただいていました。一方で、連載という形式はどうしても内容が断片的になりやすく、「研究を始めるところから発表・論文化までを一通り理解したい」という声も寄せられていたのです。
そこで今回は、臨床現場の疑問から研究が形になり、学会発表や論文につながるまでの流れを一冊のストーリーとして整理し直すことを意識して書籍化しました。連載内容をただまとめるだけでなく、対象読者を他の医療従事者や学生にも広げ、研究の流れを一連のプロセスとして理解できる構成へと大きくブラッシュアップしています。
本書の最大の狙いは、臨床研究は特別な研究者だけのものではなく、臨床現場で疑問をもつ人なら誰でも始められるものだと感じてもらうことです。日々の診療のなかで生まれる「なぜ?」を、研究という形にしていくための入口になれば嬉しく思います。
――「はじめに」で、『統計の詳細な解説を網羅する解析マニュアルではなく、思考のプロセスを大切にしている』と書かれていたのが印象的でした。
臨床研究の本というと、統計解析や研究デザインを体系的に解説した書籍が多いですよね。もちろんそれらは非常に重要なのですが、臨床研究に初めて取り組む場合、実はその解析に至る前の段階でつまずいてしまうことが少なくないのです。
実際の臨床現場では、「研究をしたい」と思うよりも先に、「この治療は本当に最適なのだろうか?」、「この患者さんの経過にはどんな理由があるのだろう?」といった疑問が生まれます。本書では、その「臨床の疑問」を「研究の問い」に変えていくプロセスに焦点を当てました。
クリニカルクエスチョン(CQ)をどう見つけるか、それをリサーチクエスチョン(RQ)へどう変えるか、そしてどのようなデータや研究デザインが適切か……といった流れを重視しています。つまり本書は「統計を学ぶ本」というよりも、臨床の疑問を研究という形にしていくための「思考のガイド」として読んでいただける内容になっています。
――本書では、初学者の「足立先生」が指導者とともに成長していく様子が、マンガや対話形式で描かれています。このユニークな構成の狙いは何でしょうか?
「研究の本は難しい」という先入観をできるだけ取り払うためです。臨床研究の解説書はどうしても専門用語が多く、初学者にはハードルが高く感じられがちですよね。そこで、実際に研究を始めようとする足立先生が、指導者と一緒に悩みながら進んでいくストーリー形式を取り入れたのです。執筆にあたっても足立先生との対話を繰り返し、足立先生の意見を踏まえて修正を重ねています。足立先生のリアルな視点を通すことで、読者の方も「ここでつまずくのか」、「この疑問は自分も感じたことがある」と共感しながら読み進めていただけるはずです。
また、書籍化にあたり「ざっくり!」解説コーナーを新たに追加しました。文章だけでは伝わりにくいポイントも直感的に理解できるよう工夫しており、研究の方法論を覚えるのではなく、実際に研究を進めていく感覚を追体験できることを目指しています。
――本書は薬剤師だけでなく、看護師や臨床検査技師、理学療法士などのコメディカルや学生もターゲットにされていますね。
本書は薬剤師向けの臨床研究入門として企画されましたが、内容自体は医療現場で働くすべての職種に共通する研究の考え方を扱っています。近年は電子カルテやレセプトデータなど、リアルワールドデータ(RWD)を活用した研究が広がっていますが、これらのデータは医師だけでなく、薬剤師、看護師、臨床検査技師、理学療法士など、多職種が日常業務のなかで関わっているものです。
職種や研究経験の有無に関わらず、臨床の疑問を研究に変える視点をもつことが、本書を活用していただくうえでの大きなポイントです。
――序文にある「あなたの問いを形にするための『伴走者』」という言葉に込められた想いを教えてください。
臨床研究を始めるとき、多くの方が「何から始めればいいのかわからない」と感じるはずです。テーマの見つけ方から文献検索、研究デザイン、倫理申請、解析、発表……と、進むにつれて新しい課題が次々と出てきます。
そんなとき、隣で一緒に考えてくれる存在がいると心強いものです。職場環境によっては、相談できる指導者が身近にいないことも多いでしょう。生成AIが利活用される時代になりましたが、そもそも「何を聞いていいのか」すらわからなければ、正しい回答も得られません。本書は、読者の方が研究を始めるときに「こういう考え方もあるのか」、「次はこのステップを考えればいいのか」と道筋を示せる存在にしたいと考えました。研究のすべてを教える教科書というよりも、臨床の疑問を形にするまでを一緒に走る伴走者のような本になれば嬉しく思います。
――最後に、日々の臨床業務に追われ「研究なんてハードルが高い」と躊躇している現場の医療従事者の皆様へ、メッセージをお願いします!
臨床研究と聞くと、「自分には難しい」、「特別な人がやるもの」と感じる方も多いと思います。しかし、研究の出発点は決して特別なものではありません。日々の臨床のなかで生まれる「なぜこの患者さんはこうなったのだろう?」、「この治療は本当に最適なのだろうか?」という疑問こそが、研究の第一歩なのです。
私自身もそのような疑問がきっかけとなり「一歩進んでは二歩下がる」といったことを繰り返して今がありますし、私の周りの指導的立場になっている研究者も皆、同じように進んできています。誰しも最初からすべてできるわけではありません。しかし、解決できたとき、世の中に発信できたとき、そして過去を振り返ったときに、大変だったけどやってよかったと思うことが必ずあるはずです。
本書がきっかけとなり、現場の疑問を「問い」として形にし、研究や発信につなげていく医療者が一人でも増えれば嬉しく思います。そしてそれがまた、きっと次の患者さんや今後の医療の発展に繋がっていくことでしょう。臨床研究は決して遠い世界のものではありません。あなたの臨床の疑問を大切にして、一緒に研究を始めましょう!

臨床現場の「なぜ?」を誰でも研究にできる本
定価3,850円(本体3,500円+税10%)
すべての医療従事者に贈る「はじめての臨床研究」の教科書
臨床現場で感じる「なぜ?」を出発点に、研究テーマの設定からデータ収集・解析、口頭やポスターによる学会発表、論文投稿までの流れをやさしく解説する入門書です。専門用語を極力避け、マンガや図表、用語解説を交えて構成することで、研究未経験者でも無理なく読み進められるよう工夫しました。日常業務と研究をつなぐ実践的な内容で、「研究、やってみたい……」を「研究、やってみた!」に変えられる1冊。臨床で「なぜ?」を抱えるすべての医療従事者に贈ります!