【INTERVIEW】刊行33年。保険診療の「迷い」をほどく一冊は、どう作られているのか

1993年の初版刊行以来、診療報酬改定のたびに内容を見直し、保険診療の基礎と最新情報を届け続けてきた『医師のための保険診療入門』。刊行から33年を迎えた現在も、多くの医師、そして診療報酬請求の実務に携わる方々にご愛読いただいています。
複雑化する制度の中で、現場で本当に必要な知識をどのように整理し、読者に届けているのか。今回は、本書の制作背景と執筆に込めた想いについて、「社会保険診療研究会」のA先生、K先生にお話を伺いました。
膨大な情報を削ぎ落とし、「今、すべきこと」に辿り着ける一冊へ。
――本書は、膨大な情報量を誇る診療報酬制度をわずか280ページに凝縮した一冊です。情報を「削ぎ落とす」という難しい作業を行ううえで、どのような想いをもって執筆に臨まれましたか。
A先生 私は、読後に健康保険制度や診療報酬制度についての「知識の棚」が頭の中にできるような本にしたいと考えています。診療報酬制度は非常に複雑かつ膨大で、医科診療報酬点数表(※1)や留意事項通知(※2)などを一度読んでも、内容を十分に理解し記憶に定着できる人は少ないと思います。
そこで本書では、制度全体を効率よく理解するための、実務の「骨格」となる部分を伝えることを重視しました。
※1 令和8年3月5日付告示第69号「診療報酬の算定方法の一部を改正する件」別表第一
※2 令和8年3月5日付保医発0305第6号「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について」
――「骨格」を理解することが、その後の実務にどう繋がるのでしょうか。
A先生 診療報酬制度の理解に自信がもてない、解説された文章を読んだりセミナーで聞いたりした内容は分かるものの、それ以外のことについては自分で解釈することができない、という人は多いと思います。その理由は、診療報酬に関する法令から必要な情報を得ることが難しいからです。
例えば、「手術の同意書の取得が必要な要件が、医科点数表に記載されている」と聞いて、それがどこに書いてあるかを探し出せる人は多くないと思います。診療報酬のルールは、告示や数多くの通知によって構成されているため、告示や通知そのものを確認するだけでなく、その中に含まれる総則や施設基準など、さらに読み込むべき規定・資料を効率よく辿っていく必要があります。
基礎となる骨格がしっかりしていれば、どの資料をみればよいのか、どの法令に書いてあるか、どういう手順でその文章を読み進めていけばよいかが段々とわかるようになります。その手がかりを本書で得て、自分の中に「知識の棚」を作っていただきたいのです。
一度頭の中にこの「知識の棚」ができてしまえば、総合病院勤務から独立開業した際にも、病院では知っておく必要がなかったが診療所経営には必須の情報・規定を自分で確認・収集し、整理した後、活用していけるのではないかと考えています。
――長く改訂されてきた本書の「骨格」を引き継ぐうえで、意識されたことはありますか。
K先生 本書は2年ごとの診療報酬改定に合わせて、長年改訂され続けてきた書籍です。したがって、過去からの経緯が非常にわかりやすいという特徴があります。
一方で、入門書という役割を考えたとき、読者が一番知りたいのは、「今、どういう保険診療をしなければならないのか」という点です。そのために、あえて過去の経緯などの一部を削ぎ落とし、現時点のルールをポイントに絞って簡潔に伝えることを最優先にしました。
読者が迷わずに「今、すべきこと」に辿り着けるよう、情報の純度を高める。それが、今の時代に求められる入門書の姿だと考えています。
返戻・査定を防ぐために、現場でつまずきやすいポイントを整理する。
――現場をよく知るお二人から見て、悪気はないのに査定(減点)を受けやすい、あるいは算定漏れしやすい項目には、どのようなものがありますか?
A先生 項目が多岐にわたるため一つに絞るのは非常に難しいのですが、現場で最も多く目にするのは「カルテへの記載漏れ」によるものです。具体的な項目でいえば、「特定疾患療養管理料」は特に注意が必要なポイントの一つだと思います。
――多くの医療機関が算定する項目だからこそ、注意が必要なのですね。
A先生 この項目はカルテに記載すべき必要事項がさまざまあり、それらが漏れてしまうことで査定の対象となるケースが目立ちます。点数も決して小さくないため、うっかり記載を忘れてしまうと、経営面でも大きな損失となってしまいます。
また、カテーテルを使用する際の詳細な記録など、高い点数の項目ほど厳密な記載が求められるため、そこが「うっかりミス」の落とし穴になりやすいと感じています。
K先生 算定要件は満たしているはずなのに、ちょっとした記録の不備で結果的に減点となってしまう。本来は算定できるはずの項目を取り漏らしてしまう。こうしたことは、現場にとって非常に大きな悩みです。
返戻や査定を防ぐためには、日頃から算定ルールとカルテ記載の整合性を意識しておくことが重要です。本書では、現場で間違いやすいポイントを具体的に整理し、実務に役立てていただけるよう構成しています。
法令の知識という「武器」を持たないまま、現場に放り出されることがないように。
――本書では、第1章で「関係法令」についてしっかり解説されています。保険診療を学ぶうえで、なぜ法律の基礎を押さえておく必要があるのでしょうか。
A先生 これもしっかりとした「骨格」をもった「知識の棚」を作っていただくことにつながります。保険医になりたての先生方が、行政によるさまざまなルールや仕組みに直面したとき、自分が何を根拠に判断し、どのように実務を進めていくべきかを正しく理解するためです。
例えば、医科診療報酬点数表だけを見ていても解決できない問題があります。実際には「保険医療機関及び保険医療養担当規則」(療担規則)などの法令に基づいたルールが存在しており、これを知らないことが原因で、思わぬ不備が生じるケースも少なくありません。
自分がどのような法的根拠に基づいて医療を提供しているのかを、積み上げ方式で整理していただくために、第1章で法令解説の項目を設けています。
K先生 保険診療の実務書だからこそ、保険医として必要な周辺知識も網羅すべきだと考えています。A先生のお話の通り、例えば独立開業を目指すのであれば、医療法の知識なども不可欠です。こうした内容も、本書ではできる限りわかりやすく解説しています。
――こういった法律の知識は、医学部などでは教わらないものなのでしょうか。
K先生 モデル・コア・カリキュラムに組み込まれてはいても、実務に即した形で深く教わる機会は少ないのが現状ではないでしょうか。しかし、いざ現場に出れば、法に則って実務を行わなければなりませんし、研修医であっても、保険診療をはじめたその時点から「知らなかった」という言い訳は通用しません。
保険診療を学ぶことは、同時にその前提となる法律を学ぶことでもあります。武器を持たないまま現場に放り出されることがないよう、保険診療の習得とセットで法律の基礎を押さえておくことが、自分自身を守ることにも繋がると考えています。
法制度に関する文章はとても難しいですが、本書ではできる限り噛み砕いて解説しています。法律の原文を直接あたるよりも、ずっと読みやすく感じていただけるはずです。将来の診療報酬における確かな成果に繋がることを考えれば、値段以上の価値がある一冊だと自負しています。本書で得た「基礎」という武器を大切に、自信をもって患者さんと向き合っていただければ幸いです。
基礎を身につけ、改定情報を無理なくキャッチアップするために。
――最後に、本書を手に取ってくださった読者の皆さまへメッセージをお願いいたします。
K先生 膨大な情報で組み立てられている保険診療の世界ですが、本書では、その基礎をわかりやすく整理しています。まずは一通り目を通していただければ、実務に必要な「核」となる知識が無理なく身につくはずです。ぜひ入手していただき、「日々の業務のお供」として通読していただければと思います。
A先生 本書は基礎的な知識を身につけるためのガイドであると同時に、2年ごとの改定情報を手軽にキャッチアップするためのツールでもあります。改定のたびに膨大な情報を一から確認するのは大変ですが、本書を継続して読んでいただくことで、自分の知識を最新の状態へとブラッシュアップしていくことができます。ぜひ、幅広い先生方に書店でお手に取っていただき、そして、ページをめくっていただきたいですね。
保険診療の制度は複雑で、日々の業務の中では判断に迷う場面も少なくありません。だからこそ、まずは基礎となる考え方を押さえ、必要な情報にたどり着くための手がかりを持っておくことが大切です。
今回のお話からは、『医師のための保険診療入門』が、そうした学びの入口として、また知識を更新するための身近な一冊として作られていることが伝わってきました。
本書が、保険診療を学ぶ方にとっての最初の一冊として、そして日々の実務の中で迷ったときに立ち返れる一冊として、役立てられることを願っています。

医師のための保険診療入門 2026
定価3,300円(本体3,000円+税10%)
知らなかったでは済まされない、保険診療のルールや関連法規などを丁寧に解説
知らなかったでは済まされない保険診療のルールを、この1冊に凝縮。 保険診療の仕組みや関連法規から、日常診療で必須となる算定項目、陥りやすい請求ミスのポイントまでをコンパクトに網羅しました。各項目には「区分番号」と「点数」を明記しているため、医学生や研修医の学習用としてはもちろん、ベテラン医師や事務担当者がデスクに備える「現場の教科書」としても最適です。