【学会レポート】第27回日本褥瘡学会学術集会

8月29〜30日の2日間で、パシフィコ横浜ノースで開催された第27回日本褥瘡学会学術集会。本学術集会のテーマは「2025年問題を多職種で乗り越える」。多くの発表で、医師・薬剤師・看護師などの職種の垣根を超えた連携のヒントが示された。
まずは基剤、それから主薬──壊死組織がある場合の基剤の選び方
褥瘡に対する外用療法では、上皮を介さず潰瘍面から直接吸収されるため、褥瘡外用剤を選択する際は基剤の特徴を知ったうえで使い分けることが重要となる。シンポジウム「どうする!? 今後の褥瘡治療の外用療法」では、加納 宏行氏(岐阜市民病院皮膚科)が、主に壊死組織がある場合の外用剤の選び方を解説した。
褥瘡には4つの治癒阻害因子があり、①T:壊死組織、②I:感染、③M:乾燥・過湿潤、④E:辺縁の段差・ポケット──の頭文字をとって「TIME」と表される。このうち「壊死組織」では、栄養が豊富で免疫機能が低下した状態に陥るが、こうした環境は細菌にとっては増殖の好条件となる。そのため、壊死組織に対しては抗菌作用を含む外用剤(カデックス®軟膏、ゲーベン®クリーム、ユーパスタ®軟膏など)を選択することが一般的である。
外用剤使用時の注意点として、カデックス®はビーズを含むため、ポケットがある褥瘡では切開して洗浄しやすくさせる(ビーズがポケット内部に残留すると褥瘡が増悪する恐れがある)、もしくは、まずヨードホルムガーゼの蛋白融解作用により壊死組織を除去したのちにカデックス®を使用する、といった流れにするとよい。一方、ユーパスタ®は幅広く使用しやすい外用剤であるものの、基剤のマクロゴールは水溶性であり、死腔を形成しやすいため、"凹んだ褥瘡"にはカデックス®がより適している。また、乾燥した壊死組織に対しては、水で膨潤させる作用があるゲーベン®クリームが有用であり、塗布後に薄いガーゼで覆うと改善されるという。
いずれの外用剤においても、「良い点、悪い点を理解したうえで使い慣れたものを使用することがよい」と加納氏は説明。使用できる外用剤が年々減っているなかであっても、まずは基剤の水への作用の特徴を理解したうえで主薬はあとから選ぶ順番がよいとし、基剤選択の重要性を呼びかけた。
残暑が続くなか、5,000人を超える参加者で賑わった
在宅における褥瘡ケアのカギは「協力者を増やすこと」
在宅における褥瘡ケアでは、多職種間での連携が欠かせない一方で、理解不足により、治る褥瘡が治らない状況に陥るケースがある。坂井 美千子氏(株式会社薬心堂本部)は委員会企画「褥瘡チームにおける褥瘡・創傷専門薬剤師の役割」のなかで、多職種を巻き込んだ研修会により、地域における褥瘡ケアの質向上に貢献した取り組みを紹介した。
坂井氏はまず、研修会を実施する前に経験した2つの事例を提示。1つ目は、坂井氏が創外固定をするよう看護師に伝えたにもかかわらず、実施されずに悪化したケース。看護師は、創外固定の皮膚への影響を懸念し実施しなかったとのことで、「看護師の不安を払拭できなかったことは大きな反省点。現在は、見本を使いながら皮膚への負担の軽さや剥がしやすさなどを実演している」と、坂井氏は丁寧に説明することの重要性を振り返った。
2つ目の事例は、看護師が「創外固定は在宅には向いていない」と、装着済みの創外固定を外したことで悪化したケース。その看護師は、「終末期の褥瘡は改善しないもの」との誤った認識ももっていた。
これらの事例を経験し、坂井氏は「薬剤師だけでなく、医師、看護師、ケアマネジャーなどを含めた多職種で研修会を実施する必要があると痛感した」と語った。研修会実施後、医師からは、認識を改める良い機会であった、褥瘡発生時に相談したいとの前向きな声が寄せられた。また訪問看護師からは、限られた訪問時間内に処置が可能か疑問が挙がったため、例えば、褥瘡が複数箇所ある場合は、日替わりで交換する部位を変えればよいことを伝えたところ、納得してもらえたという。
坂井氏は、よりよい褥瘡ケアのためには、1人でも協力者を増やすことが大切であると強調し、多職種間で連携する際には諦めずに工夫することの重要性を訴えた。
