【学会レポート】日本臨床試験学会 第16回学術集会総会

『誰でもわかる臨床試験』シリーズ(監修:日本臨床試験学会)、担当編集のNです。2025年2月28日からの2日間、パシフィコ横浜で日本臨床試験学会第16回学術集会総会が開催されました。「未来の医療と社会への貢献を考える」をメインテーマとし、臨床試験に携わる関係者の未来に向け、アカデミア・企業・行政それぞれの立場から闊達な議論が交わされました。
日本臨床試験学会(JSCTR)では、2024年よりスタディマネジャー(StM)、モニタリング担当者(MO)、臨床データマネジャー(CDM)の各検定制度が順次スタートしており、同大会のシンポジウム「臨床研究専門職(Study Manager、Data Manager、Monitor)の育成、認定制度設計とキャリアパスについて」では、学会代表理事および各検定・認定制度の委員長らより、認定制度の各種報告や臨床試験専門職のキャリアパスにかかる展望等が示されました。
2009年、JSCTRの前身である「一般社団法人 日本臨床試験研究会」が創立。当初からのミッションとして「臨床試験・臨床研究の最も重要な基盤は、研究を計画かつ遂行する、またこれらの活動を支援する専門職の存在とその養成」を掲げ、創設当初から臨床試験に携わる人材の育成やキャリアパスを“将来の課題”として設定していました。2009年の創立から今年で16年。創立当初に思い描いていた未来の目標が、今、認定制度として形を成し、走り始めています。
本検定・認定制度のテキストに指定されている『誰でもわかる臨床試験』シリーズ。本シンポジウムの様子を、担当編集がお伝えいたします。
目次
認定取得者のキャリアパスを、学会としても強く支援していく ―山口拓洋代表理事
JSCTRの代表理事兼「だれでもわかる臨床試験」シリーズの編集代表者の山口拓洋氏は、2024年より順次開始している各検定・認定制度について、学会としての課題も踏まえたうえで、その主旨等について見解を示した。
山口氏は、JSCTRとして求める「臨床試験に携わる人の素養・能力」について、2019年に国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)より公開された「トランスレーショナルサイエンティスト人材のあるべき姿(概念)」を引用し、JSCTRとしても、各検定・認定試験を通じてこういった人材育成を目指したいと述べた(表)。
表 トランスレーショナルサイエンティスト人材のあるべき姿(概念)
また、山口氏は臨床試験専門職のキャリアパスについても言及。海外では臨床試験専門職のキャリアパスが明確化されており、結果として給与にもポジティブな影響を及ぼしているが、国内ではそのようなアウトカムまで紐づいていない現状を指摘。学会としても、認定試験だけでなく、セミナーや養成カリキュラム・プログラム等の体系化を目指しつつ、各検定・認定制度の質の担保、関係者への更なる周知等を通じて、認定取得者のキャリアパスに繋げていきたいと強い使命感を示した。
StMの求められる役割は“コンサートマスター”―岩崎幸司理事
スタディマネジャー認定制度小委員会の委員長である岩崎幸司氏は、同認定試験で受験者に求めることに加え、StMに求められる役割や能力、同職が置かれている現状と今後のキャリアパスについて考えを述べた。
岩崎氏は医師主導臨床試験のチームを“オーケストラ”に例え、研究者である医師は “指揮者”、StMは“コンサートマスター”であると述べた。StMは、指揮者である医師の意図を楽団員(=臨床試験チームの他メンバー)に適切に伝え、臨床試験を円滑に運用できるようにコミュニケーションを図ることが求められると示した。StM検定試験では「テキストの理解度を図る試験」である一方、認定試験ではこうした「実際にStMとしての仕事ができているかどうかを確認する試験である」と述べた。
また岩崎氏は、StMのキャリアパスに関する展望も紹介。キャリアアドバイザーの資格保有者でもある同氏は、キャリアパスを「キャリアについて、目指すところを考え、辿り着くまでの道のりの話。やりたい仕事・やりたい立場・やりたい場所を考えていくこと」と定義し、併せて政府の健康・医療戦略推進本部が策定した「医療分野研究開発推進計画」(令和7年2月決定)にも触れた。本計画内にてStMおよびそのキャリアパスを構築することが明記されていることを示し、国としても、StMのキャリアパス構築について積極的な姿勢を示していると強調した。
各職種の役割の確立と整備が重要 ―松嶋由紀子氏
モニタリング担当者認定制度小委員会の委員長である松嶋由紀子氏は、同検定制度および認定制度に触れたほか、モニタリング担当者のキャリアパスについて自身の考えを述べた。
松嶋氏はモニタリング担当者のキャリアパスを触れるうえでの前提として、臨床試験専門職のグローバル団体である ACRP(Association of Clinical Research Professionals)が公開している「Clinical Research Career Lattice」を紹介。グローバル環境では、臨床試験を適切に実施するための職種が細かく分類されており、スムーズにキャリアを移行できるような認識・体制が浸透していることを示した。
一方のわが国では、例えば特にアカデミアにおいて、プロジェクトマネージャー(PM)やStMがいない研究者主導臨床研究の場合、モニタリング担当者がPMやStMの一定範囲の業務を兼任し、マルチタスクが常態化していることを指摘。そもそもとして、日本の臨床試験では、モニタリング担当者だけでなく多数の職種が兼任を行っていることが多いことに触れ、グローバルで作成されているキャリアの選択肢例を、そのまま日本で使用することは現状では難しいとし、まずは各職種の役割の確立と整備が重要であると述べた。
専門職の地位確立と、グローバル人材の育成および持続的輩出を目指す ―髙田宗典氏
臨床データマネジャー(CDM)認定制度小委員会の委員長である髙田宗典氏は、同検定制度の受験結果、受験者分析の結果報告を行ったほか、海外CDMと国内CDMに求められるコンピテンシーを比較・検討を踏まえたうえで、JSCTRのCDM認定試験が目指す将来的なゴールを示した。
髙田氏は、臨床データマネジメント分野における国際的な専門組織であるSCDM(Society for Clinical Data Management)が行っている認定制度「CCDM®(Certified Clinical Data Manager)」について、その主旨と目的について紹介した。その上で、SCDMが規定する67個の臨床データマネジメント行程、47個の「JTF(Joint Task Force)Clinical Trial core Competency」の評価項目に関し、初級/中級レベルに求められるコンピテンシーを分析した。その結果、グローバルCDMコンピテンシーと国内のCDMコンピテンシーは同じ傾向があることが判明し、国内で行っているCDM業務は、グローバルでも十分に通用すると強調した。
JSCTRのCDM認定制度は、制度設計の段階から、このCCDM®との住み分けを明確にしており、将来的にも競合しない形で、なおかつ効率的なキャリア形成につなげられるよう意図していることを強調(図)。JSCTRのCDM認定制度の将来的なゴールを「専門職としてのキャリア形成のみならず、グローバルで活躍できる人材を持続的に輩出し、専門職としての認知・地位を確立すること」と述べた。
図 CDM人材の育成に関するJSCTRのCDM認定制度とSCDMのCCDM🄬
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