【学会レポート】第43回和漢医薬学会学術大会

第43回和漢医薬学会学術大会が、「生薬のチカラ ~和漢薬から食卓まで~」をテーマに、2026年8月22日(土)・23日(日)の2日間、昭和医科大学上條記念館で開催された。大会長は昭和医科大学薬学部臨床薬学講座天然医薬治療学部門の川添和義教授、実行委員長はひろこ漢方内科クリニックの高橋浩子院長。会場では、和漢薬や漢方医学に加え、生薬が医療、薬学教育、研究、さらには日常生活や食の領域にどのようにつながっているのかをめぐり、幅広い議論が交わされた。
漢方薬を読み解く鍵は「生薬」にある
初日に開催された「医師・薬剤師のための実践漢方教育講座1」の中で、大会長の川添氏は、薬学教育の中で生薬が持つ「薬能(やくのう)」をどのように体系的に学ばせるかについて、同大学における教育モデルを交えて講演を行った。
漢方薬を正しく理解し、患者ごとに最適な処方を提供するためには、根幹をなす「生薬」の知識が絶対に欠かせない。漢方薬は、性質の異なる複数の生薬が精妙なバランスで組み合わされて成り立っているが、それぞれの生薬には独自の薬能(臨床的な効能・働き)、由来植物(基原植物)、含有する天然物化学成分、品質規格、そして臨床上の明確な使いどころが存在する。これらが相互に影響し合うことで、一つの漢方処方としての総合的な治癒力が生まれるのである。
つまり漢方薬を学ぶことは、処方名を覚えることにとどまらない。生薬を起点とし、その働きや処方内での役割を理解したうえで、薬用植物や天然物化学の知識とも結びつけながら考えることが求められる。
モデル・コア・カリキュラムが示す薬学ならではの役割
令和4年度改訂版の薬学教育モデル・コア・カリキュラムでは、医学・歯学・薬学が同時に見直され、医療人として共通する資質・能力を育成する方向性が示された。医学教育では漢方医学や和漢薬に触れる一方、生薬そのものを体系的に学ぶ機会は限られる。これに対し薬学教育では、医療薬学として漢方医学の考え方を学ぶだけでなく、基礎薬学の領域で生薬、薬用植物、天然物を学ぶことが求められている。背景には、薬剤師が漢方薬を単なる処方名として扱うのではなく、構成生薬の働きや品質を理解し、患者への説明や服薬指導に生かすことへの期待がある。
低学年から「なぜ効くのか」に迫る
昭和医科大学では、低学年から生薬・薬用植物・漢方薬を関連づけて学ぶ教育を重視している。1年次には、生薬学の基礎を学ぶ科目を配置し、漢方薬に配合される生薬を薬能の視点から分類する。気・血・水との関係、温める作用、冷やす作用、補う作用、動かす作用などを手がかりに、生薬の働きを整理していく。従来の生薬学では「なぜその生薬を学ぶのか」「臨床でどのように使われるのか」が見えにくい。そこで同大学では、早い段階から薬能を意識させ、漢方薬の理解へつなげる工夫をしている。
さらに、1年次に生薬を学ぶ意義は大きいと川添氏は言う。入学直後の学生の中には、漢方薬や自然由来の薬に関心を持つ者も少なくない。教養科目が多い時期に、薬学らしい内容へ触れることは、薬剤師を目指す意識を高めるきっかけにもなる。一方で、生薬学は覚える事項が多く、薬学の学びの厳しさを実感する科目でもあるため、早い段階で「覚える」だけでなく、「結びつけて理解する」経験を積むことが、その後の専門教育への足場となる。
4年次には処方理解へ発展
1年次に学んだ内容は、4年次の漢方薬教育へとつながる。同大学では、4年次に漢方薬を本格的に学ぶ科目を配置し、生薬の薬能を基礎として、漢方処方の構成や病態との関係を学ぶ。生薬の働きは多様だが、学生にとって理解しやすいように、まず「補う」「動かす」「温める」「冷やす」という4つの大きな働きに整理する。さらに、補気薬、補血薬、利水薬、理気薬、駆瘀血薬、温裏薬、清熱薬などを、これらの働きの組み合わせとして捉えていく。
この整理により、学生は処方に含まれる生薬を見たとき、その処方がどのような病態を想定しているのかを推測しやすくなる。処方名だけを覚えるのではなく、構成生薬から病態を読み解く視点を持つことが、薬剤師にとって重要になる。実際の臨床において、漢方薬の服薬指導を行う場面では、こうした理解がそのまま説明力につながる。患者から「冷えやむくみに使えるのか」「どのような体質に向くのか」と聞かれたとき、添付文書の効能・効果を読むだけでは十分とはいえない。構成生薬の薬能を理解し、どの病態にどの生薬が働いているのかを説明できて初めて、患者に納得感のある服薬指導が可能になるのである。
「生薬のチカラ」を理解する指南書として
川添氏の発表で示された「薬能」を軸とする学びは、漢方処方を理解するうえでも重要な視点となる。その考え方をさらに深める参考書として、同氏の著書『生薬の働きから読み解く 図解漢方処方のトリセツ第2版』がある。
同書では、148の医療用漢方処方について、構成生薬の働きを「温」「冷」「動」「補」の4つに大別し、各生薬がどのような病態に対応しようとしているのかを、わかりやすい図を用いて解説している。これは、川添氏が発表で紹介した教育実践とも重なり、生薬の薬能から処方をロジカルに読み解き、臨床場面での説明や処方理解につなげるための橋渡しとしても活用できる一冊である。
大学での学びや学術大会で再認識された「生薬のチカラ」を、現場で使える知識へと引き上げるために、薬学生の学習から、漢方薬は難しい・苦手と考えている薬局・病院で服薬指導に携わる薬剤師の皆様まで、ぜひ本書を読んでいただき、漢方処方の「なぜ?」を紐解く楽しさを体感してほしい。

図解 漢方処方のトリセツ 第2版
定価4,400円(本体4,000円+税10%)
漢方処方の意図を読み取り、理解を深めるための解説書
本書は、薬剤師にとってなじみが深い生薬を鍵に、漢方薬処方の根底にある処方意図について、読み取ることを目的とした漢方薬の解説書です。医療用漢方製剤148処方について、生薬の働きを大きく4つ(温・冷・動・補)に集約し、それぞれの生薬がどのような働きを演じているのかをわかりやすく図解するほか、漢方処方利用の実際など、服薬指導に役立つ情報も盛り込んでいます。第2版ではさらに、漢方理論の解説を充実させたほか、生薬に関するコラムを多数掲載しています。