生成AIは薬剤師の現場をどう変えるのか - 進化する薬剤師業務を追う
生成AIであるChatGPT(OpenAI社)が2022年11月にリリースされて以降、その進化は医療業界にも大きな影響を及ぼしている。今回、病院の取り組みとして生成AIを導入し、薬剤師業務に対しても早期から積極的に活用している小林記念病院の加藤豊範氏、渡邉雄貴氏、また、生成AIに関する書籍『病院薬剤師のための生成AI完全実践ガイド』を加藤氏とともに出版した田口恵実氏(株式会社pharmake 代表取締役社長)に、薬剤師が現場で生成AIを活用する際の工夫や考え方について伺った。
生成AIの導入で薬剤師業務はどう変わるのか
──小林記念病院では医療DXに伴い、さまざまな薬剤師業務に対して生成AIを積極的に活用していますが、導入しようと思った背景について教えてください。
加藤生成AIを使って業務を自動化できれば、当院のような中小病院でも、急な欠員が発生したときにカバーしやすくなります。また、将来的に薬剤師の数が減っていくなかで業務の質を維持するためには、医療DXに取り組む姿勢は欠かせません。
──院内で活用し始めた際の反応や、スタッフへの教育で工夫している点について教えてください。
渡邉導入当初、ChatGPTを使用した際に誤回答(ハルシネーション)があると「使えない」という意見が一部で発生しました。ChatGPTをはじめとするビッグデータをもとに回答を生成する生成AIでは誤回答が多くなる一方で、NotebookLM(現 Gemini Notebook)のように、自分でアップロードしたPDFなど、限られた情報源から回答を生成するものでは発生しにくくなるので、場面に応じてツールを使い分けるよう勧めています。
加藤当院では定期的に研修会を実施しており、ハルシネーションや生成AIへの依存に対する注意喚起、それから個人情報の扱いについては必ず取り上げています。特に、個人情報を生成AIに入力しないよう口をすっぱくして呼び掛けています。こうしたことは、今後も継続的に注意を促す必要があると感じています。
ただ、せっかく導入しても次第に使わなくなるパターンや、効率化によって空いた時間を十分に活用できておらず、結局生産性が上がっていないパターンもよくみます。例えば、ChatGPTで学会発表のポスターを作ると、案を何十枚も出すことは簡単にできますが、選ぶのに時間がかかり、結局時間の短縮につながらないこともあります。表面的な効率化にとらわれず、最終的にどのように生産性を上げていけばよいか考えていく必要があるのではないでしょうか。
生成AIごとの得意分野、不得意分野
──生成AIにはChatGPTやGeminiなどさまざまな種類が公開されていますが、どのように使い分けていますか?
加藤当院で公式に了承が取れているのはChatGPTです。私の担当部門では、Gensparkというスライドが作成できる生成AIの使用も推奨していますが、今後GeminiやClaudeも使えるようにしたいと考えています。個人的にはGeminiが一番使いやすく、例えば会議の日程調整をするときに、Geminiに「いつ空いてる?」と聞くと、Googleカレンダーを参照して日時を提示してくれるので非常に便利です。
田口ChatGPTは調べ物で使う人が多い印象です。構造化したいとき、議事録の文章を整理したいときはGemini、嘘を言ってほしくないとき、情報を要約するときはNotebookLMが強いですね。文字起こしはGoogle系が、資料作成やExcelの統計解析にはClaudeがお勧めです。Gensparkは、ChatGPTやClaudeなどを一括して利用できるというメリットがあります。
──薬剤師の職能という視点で、生成AIにより効率化できた作業や実務で役立ったことはありますか?
渡邉当初、記録作成や服薬指導の準備に使えないか検討していましたが、個人情報の観点から課題が多いと感じています。
現時点では、DIニュース、医薬品供給制限リストなどの作成で活用しています。また、配合変化に注意が必要な薬剤や一包化できない薬剤などのリストを作成する際、一から調べるのではなく、薬剤部内で意見出しをしたときの録音データをもとに生成AIにリスト化してもらったこともあります。
──DIニュースはどのような流れで作成していますか?
渡邉まずは情報をピックアップするために、医薬品安全対策情報(DSU)などの公的な資料をダウンロードし、当院の採用薬と機械的に照らし合わせる作業を生成AIで実施しています。
また、GeminiやClaudeなどを使って文章を整えるのもお勧めです。これらの生成AIには、特定のルールで出力するよう設定できる「プロジェクト」という機能があるので、例えば、「医師向けの文章を作成するプロジェクト」や「特定のソースをもとに作成するプロジェクト」などを作れば、そこに文章を放り込むだけで毎回同じ条件で出力してくれます。誰でも同じような出力結果を得ることができるので、いずれはタスク・シフト/シェアの一環として、非薬剤師の事務職員に下地を作成してもらい、薬剤師が最終確認をする流れにできないか検討しています。
──医薬品供給制限リストの作成について教えてください。
渡邉厚生労働省が週に1回ほどの頻度で医療用医薬品供給状況を更新しているので、そこからダウンロードしたリストと、当院の採用薬のリストの2つをNotebookLMにアップロードし、「うちの採用薬で供給制限がかかっているものをリスト化してください」と指示しています。
ただ、リストには1万件以上の薬剤が記載されているため、飛ばし読みをされてしまうこともあり、始めた当時はリストの照合結果があまり正確ではありませんでした。そこで、アドバイスを求めて田口さんに相談しました。
田口NotebookLMではExcelファイルを直接扱えないため、正確性を求める場合、CSV形式でデータをアップロードすると列・行の関係を生成AIが解釈しやすくなり、PDFや自由記述よりも照合精度が高まります。ただ、一度に扱えるデータ量に限度があるので、データを細かく分ける必要があります。データを区切る作業については、事務職員でも作業できるよう手順を標準化しています。もう一つの工夫として、薬品名ではなく、YJコードで照合するようにしています。
渡邉データを区切る作業については、事務職員でも作業できるよう手順を標準化しています。もう一つの工夫として、薬品名ではなく、YJコードで照合するようにしています。
──スライド作成にも生成AIを活用していますか?
加藤生成AIでスライドを作成する際は、GensparkとGeminiの両方で作ったものを見比べて取捨選択するようにしています。生成したスライドは、PowerPointで編集できる形でダウンロードできるので、文字のずれや内容面を確認しながら修正する流れです。
渡邉私もGensparkが好きで使っています。ただ、やはり間違えることも多くて、例えば、「ドパストン」はパーキンソン病薬なのに、ずっと「循環器の薬」と言い張って資料を出してきたこともありました。なので生成AIの言うことを真に受けないよう、自分のスキルを磨くことも欠かせません。
──その他の活用方法があれば教えてください。
加藤先日、部下の面談をした際に、自分がどのように評価を付けているか分析してみたところ、面談の順番によって評価に偏りがあることがわかりました。客観視してくれるので、自己分析につながったと感じます。
また、最近は英語学習のためによく使っています。Geminiに「TOEICの練習問題を出してください」、「目標点数は何点です」などと入れれば、問題やヒントを出してくれます。問題をNotebookLMに入れれば音声再生も可能なので、リスニングの勉強にも使えます。専門薬剤師の資格取得のための勉強にも活用できるので、過去問がない場合や、周囲に相談できる先輩がいない場合に便利なのではないでしょうか。
生成AIで「空いた時間」をどう活用するか
──これから生成AIを活用した業務が求められるなかでの、課題と展望について教えてください。
加藤これから生成AIを活用するうえでは、「空いた時間を何に使うか」という問いを立てる“問いの力”が大事だと思っています。
せっかく時間を短縮できても、「減った分に、時間がなくてできなかった仕事や新しい仕事が来てしまい、結局、業務時間が増えている」という悪循環に陥ることが少なくありません(図1)。しかし空いた時間は、「日頃できなかった雑務」ではなく、「自分が成長するための勉強」や「生産性の向上につながる業務」のために使わないと、根本的な業務時間の削減にはつながりません。理想は、作業時間を少しずつ減らしていき、空いた時間で自己成長に即した課題を解決しながら、さらに業務時間を減らしていくことです。そうすれば、新しい業務が増えても、自身の能力向上によりカバーすることができます。自分の成長につながる時間の使い方ができるよう、事前に目標を設定する必要があると感じています。
また、これまでは課題が発生したとき、分析、次のアクションプランの提示、選択までの一連の流れを全部人間が行っていましたが、生成AIの登場によって、分析や資料作成、次のプランの提示は生成AIが担えるようになりました。“After
AI”時代のいま、私たち人間には課題を整理して良い問いを設定する“問いの設定力”と、提示されたアクションプランのなかからより良いものを選び取る能力、すなわち“意思決定の力”が求められるようになっているのではないでしょうか。

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