薬剤師・医療ニュース from Jiho[2025年7月上旬]

在宅専門のフリー薬剤師、「開局しないモデル」挑む
在宅医療に人や時間を割けない薬局に代わり、業務を請け負うビジネスモデルの確立に、金沢市の薬剤師・小林星太さんが挑んでいる。2025年3月に個人事業として起業。主に「対人業務」の調剤報酬を小林さんが得る一方、薬局側も地域の在宅ニーズに応える体制を整えたり、地域支援体制加算で求められる実績要件を満たせるようになったりするなど「互いにメリットがある仕組み」という。
小林さんは、健康保険法上は契約先の薬局に所属する保険薬剤師。ただ雇用契約は結ばず、業務委託という形で在宅医療に携わる。在宅の新規案件は小林さんが開拓し、患者宅の最寄りの薬局に受け入れを依頼。その薬局は再び小林さんに対人業務のみを依頼し、実際に小林さんが患者宅を訪問する、という流れだ。医薬品の調製などの対物業務は原則として薬局が担う。
無菌製剤や終末期の緩和ケア、小児患者といった、より専門性の高い在宅医療も小林さんが担う。このほか、業務の委受託だけでなく、契約先の薬局の社員研修も実施。クリーンベンチの使い方を含め、それぞれの薬局が独立して在宅医療に取り組める体制づくりも支援する。
現在は自宅から車で20分で移動できる範囲内にある約10薬局と契約。個人宅と施設を合わせて25人の患者を受け持っている。小林さんは「個人で動くとしたらこの活動範囲が限界。患者数も100人が上限だろう」と語る。
ー 収入は対人業務中心の「出来高」で
小林さんの収入は、基本的には契約先の薬局が算定できた在宅患者訪問薬剤管理指導料やその加算などに応じて決まる「出来高払い」。さらに、対象となる患者は小林さん自身に訪問依頼があった場合に限る。
契約薬局では小林さんを介して依頼を受けた在宅実績が積み上がり、地域支援体制加算や在宅薬学総合体制加算の求める実績要件を満たしやすくなる。小林さんは1人薬剤師の薬局などを念頭に、「人員や経験不足で在宅に取り組めない薬局にとって、負担はほぼない仕組み」と話す。
患者との間で何らかのトラブルが生じた場合は、対物業務なら薬局が、対人業務なら小林さん自身が責任を負う契約にしているという。
ー フリーランスの新しい形に
小林さんは約10年間、金沢市内の薬局で在宅医療を専門に取り組んできた。ただ、地域単位で見ると急激に伸びる在宅ニーズに薬局が対応できていないと感じていたという。地域の在宅患者を支えつつ、各薬局の在宅体制を後押しするため、自身では新たに薬局を開局しないスタイルでの“独立”を決めた。
現時点では、あくまでも1人でカバーできる範囲で取り組んでいくため、従業員を雇用するなど規模を拡大する予定はない。小林さんは「(在宅の対人専門薬剤師を)フリーランスの在り方の一つとして確立していきたい。そのための発信も続けていく」とSNSなどを通じた情報発信にも力を入れる。
|2025年6月18日・PHARMACY NEWSBREAK|
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全国薬剤師・在宅療養支援連絡会、特定保険医療材料の「大半が逆ざや」
全国薬剤師・在宅療養支援連絡会(J-HOP)制度検討委員の宇野達也氏(ComediCs=スギ薬局グループ)は日本在宅医療連合学会大会のシンポジウムで、薬局の特定保険医療材料は「ほとんどの品目が逆ざや。薬局の採算性を圧迫している」と改善を訴えた。
このシンポジウムでは、在宅医療制度について職種ごとに現場で浮上している課題を探った。宇野氏は薬剤師の立場から、不採算になっている業務を紹介。▽訪問料の算定回数に制限がある▽無菌調剤をしても、定められた輸液・注射でなければ無報酬になる―問題とともに特定医療保険材料の「逆ざや」問題に触れた。
「ある薬局の状況」として、具体的な事例も紹介した。あるポンプ用輸液セットは納入価2090円に対して、保険償還価格は1400円で、在宅中心静脈栄養用輸液セットの中には納入価1165円、償還価格414円のものもあるという。宇野氏は「こういうものがいっぱい使われてしまうと、薬局としては苦しくなってしまう」と指摘した。
医師や訪問看護師を交えた総合討論でも「逆ざや」が話題に。薬局だけでなく医療機関や訪問看護ステーションでも同様の問題が生じているという。その上で、「骨太の方針2025」で「経済・物価動向などを踏まえた対応に相当する増加分を加算する」などと記載されたことを踏まえ、「逆ざや」解消に期待する声も上がった。
|2025年6月16日・PHARMACY NEWSBREAK|
日本老年薬学会、皮膚外用剤の機械的な後発品変更「避けるべき」
日本老年薬学会は、高齢者への皮膚外用剤の調剤に関する声明を発表した。長期収載品の選定療養の導入により薬剤を後発品に変更した場合、特に高齢者は説明内容を理解しにくいことが課題だと指摘。薬剤師は、これまで以上に患者背景や薬剤の効果、安全性、品質に関する情報を聞き取って「医療上の必要性」を判断することが求められるとし、「機械的な後発品への変更は避けるべき」と主張した。
声明では、効果や安全性、品質に関わる患者からの情報が「医療上の必要性」に該当する可能性があるとし、先発品から後発品への初回切り替え時だけではなく、切り替え後の調剤についても患者から十分な情報を聴取する必要があると強調。適宜医療機関へ疑義照会を行い、医師や他の医療従事者と連携して最適な治療を提供する必要があるとした。
その上で、皮膚外用剤については、後発品への切り替えは「慎重にならざるを得ない」との見解を示した。
|2025年6月24日・PHARMACY NEWSBREAK|
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服薬指導は電話のみ、行政指導受けた過疎の薬局
処方薬を配送した患者に電話のみで服薬指導をしていたとして、近畿地方の過疎地域の薬局が今春、保健所から口頭で指導を受けた。無薬局地域に暮らす患者宅に対し、当初は薬剤師が処方薬を配送し、対面で服薬指導をしていた。しかし、人繰りに行き詰まり、事務員が配送するように。薬剤師が患者の顔を見ないまま、電話で服薬指導する手法が常態化していたという。
この薬局では10年ほど前から、へき地に暮らす患者宅などへ処方薬の配送を始めた。きっかけは、交通手段がないなど受診が難しい患者を対象に、地域の診療所が送迎バスの運行を開始したこと。診療所の近くには院外処方を受ける薬局がなかったため、この薬局が手を挙げた。「地域医療を支えたい」という思いがあったという。
ファクスで処方箋を受け付け、しばらくは経営者自らが車で片道30分ほどかけて患者宅に処方薬を配送し、現地で服薬指導をしていた。配送料は無料。しかし、薬局の店舗業務が忙しくなる中、処方薬の配送は業務の負担になっていった。土地柄、薬剤師の増員は難しく、配送は事務員に任せることにし、服薬指導は電話に切り替えたという。
「調剤報酬の服薬管理指導料を算定しなければ、服薬指導は電話だけでも構わないと誤解していた」。じほうの取材に対して、この薬局を経営する薬剤師はこう説明する。
コロナ禍の特例として、一時的に電話での服薬指導は認められたものの、2020年に改正された医薬品医療機器等法では電話のみは「不可」になった。この薬局では保健所の指導を受けた後、処方薬を配送する事務員にタブレットを持たせ、患者宅と薬局をつないでオンライン服薬指導をする体制を整えたという。
ー 「電話でも服薬指導せず」証言も
当時勤務していた薬剤師によると、電話での服薬指導をしないときもあった。薬剤師は配達の事務員に、処方薬と共に質問事項をまとめた紙のメモを託し、事務員が配送先で薬剤師の代わりに患者から聞き取る。事務員が持ち帰った回答のメモを基に、薬剤師が薬歴を作成する流れだったという。
この薬剤師は「違和感はあったが受け入れざるを得なかった」と打ち明ける。
薬機法は薬局開設者に対して、薬剤師に対面(もしくはオンライン)で服薬指導をさせるよう定めている。事務員に「仲介」させる今回のケースについて厚生労働省医薬局総務課は、個別の事例については各保健所、厚生局が対応を判断するとしつつ、「薬機法の定める情報提供・薬学的知見に基づく指導には当たらない可能性がある」としている。
|2025年6月16日・ PHARMACY NEWSBREAK |
有志がオンライン研究会、医療事故「裁判例」から薬剤師の役割考える
医薬品に関する医療事故の裁判事例を題材に、薬剤師の役割について考える研究会が、薬剤師の有志らによって月1回、オンラインで開催されている。「実践薬学研究会」という名の通り、裁判事例で得られた教訓を日頃の実践に生かすのが目的。研究会を主導する元東邦大薬学部薬事法学研究室准教授の秋本義雄氏は、「裁判事例は薬剤師に必要な行動や意識を探るために有益な資料。先人の失敗から学び、医療安全により一層貢献できる薬剤師を増やしたい」と語る。
研究会は秋本氏らが2019年に立ち上げた。当初は対面で開催していたが、コロナ禍を機にオンラインに切り替え、月に1回のペースで続けている。全国から会員登録する約50人は、薬学生、薬局薬剤師、病院薬剤師、大学教員、現役を退いた元薬剤師など幅広い。研究会には毎回十数人が参加し、秋本氏が選んだ裁判事例に対して、自身の経験を踏まえながら現場の薬剤師の視点で意見を交わす。
2025年3月に開いた研究会では、「リンデロンA」の長期使用によって患者が難聴になったとして、医師に損害賠償を命じた2003年4月22日の福岡地裁判決を取り上げた。判決は、添付文書に難聴の副作用への注意が記載されているにもかかわらず聴力検査などを怠り、患者に対する副作用情報の説明も不十分だったと医師の過失を認めた。医師は検査を実施したと主張したが、カルテに記載がないことを理由に退けられた。
「リンデロンAに限らず、定期的または随時検査を行わなければならない薬剤が多い。薬剤師はこれらの副作用からどうすれば患者を守ることができるか」。判例を踏まえた秋本氏の問いかけに対し、参加者からは「長期服用の場合に定期検査が必要とされるものは、薬剤師もその重要性を患者に分かりやすく説明し、必要な検査を受けられるようサポートすべき」「薬歴は医師のカルテと同じ。記録がないと実施が疑われる」などといった意見が出た。
秋本氏は、過去の医療過誤の裁判の多くは医師や看護師の責任を問うものだったが、「薬剤師が気付いて行動していれば防ぐことができたと考えられる事例が山ほどある」と指摘する。最近では薬剤師の役割への認知が広がってきたことで薬剤師が矢面に立つケースも増えてきたと強調。裁判事例を「自身の薬剤師業務に置き換えて、患者のために何ができるかを自分で考えて実践につなげることが、この研究会の目的」と力を込めた。
|2025年6月18日・ PHARMACY NEWSBREAK |
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