教科書では出会えない感染症の話
イの章 いよいよ出発――学びを楽しむ
1 B型・C型肝炎――Guidelines and beyond
2 コレラだけじゃないビブリオ感染症
3 ラ属の感染症とは?
4 ガイドラインも新しくなった感染性心内膜炎
5 感染者が急増している梅毒の診断と治療
6 皮膚軟部組織感染症を見逃さないための基本
7 発生・分布域の変化に注意すべきダニ媒介感染症
8 正しく知ろうインフルエンザワクチン
9 特徴を理解した抗真菌薬の使い分け
10 「ただの常在菌」ではないカンジダ症
11 「急性」か「慢性」かで考えるアスペルギルス症の診断・治療
箸休め ゲームで始める細菌楽&抗菌楽
ロの章 論理で攻める感染症――原則を知る
1 次のパンデミックに備えた公衆衛生の新しい視点 シンデミック理論
2 入院患者の発熱――見逃さない,慌てない
3 カンジダから考える免疫楽――いまさら聞けない免疫学用語とともに
4 初心にかえろう! ペニシリン系抗菌薬の使い方
5 セフェム系抗菌薬の使い方――その適応から最新の話題まで
6 いつ使う? どう使う? カルバペネム系抗菌薬の適切な使い方
7 意外に知らない感染症法と感染症発生動向調査
8 感染症発生動向調査から見えてくるウイルス性呼吸器疾患
9 感染症発生動向調査から見えてくる麻疹と風疹
10 麻疹とSSPE――危険な合併症とワクチンが必要な理由
箸休め 症例報告(論文)の書き方のイロハ
ハの章 はたらく感染対策――理想と現実
1 高齢者に押し付けない感染対策指導
2 どう防ぐ? 手術部位感染症
3 平時から備えておきたい災害時の感染対策
4 新しい抗AMR薬の登場――β-ラクタム系薬を中心に
5 抗菌薬適正使用物語――AST発足10年の歩みを振り返る
6 ステロイドと感染症対策――諸刃の剣を正しく使う臨床実践
7 甘くみてはいけないムンプスと合併症
8 早期診断が一生に関わる重症複合免疫不全症と新生児スクリーニング
序文
2014年7月,私たちは大阪市立大学(現大阪公立大学)医学部で,感染症の勉強会を始めました。きっかけは,医学部5年生の有志から寄せられた「感染症をもっと勉強したい」という声でした。そこで,臨床感染制御学の掛屋と山田康一先生,細菌学の金子幸弘先生が集まり,学生たちと一緒に感染症の「イロハ」を学ぶ場をつくろうと始めたのが,ILOHA(Infection Lecture at OMU Hospital & Affiliates)です。第1回を開催したときには,この勉強会が10年以上,400回を超えて続き,一冊の本になるとは想像していませんでした。
ILOHAで大切にしてきたのは,知識を一方的に伝えることではありません。
「なぜ,この患者さんはこの感染症になったのか」
「なぜ,この検査を行うのか」
「なぜ,この抗菌薬を選ぶのか」
一つひとつの「なぜ?」を大切にしながら,微生物,診断,治療,感染対策,そして患者さんの背景までをつなげて考える。それがILOHAの学び方です。
私たちが感染制御の活動を始めた当初から,大切にしてきた言葉があります。それは,私の教室の理念でもある「感染制御の文化を創る」です。
感染制御は,一部の専門家だけで実現できるものではありません。医師,看護師,薬剤師,臨床検査技師をはじめ,医療に関わる一人ひとりが感染症について考え,適切な行動を日々の診療のなかで実践する。その積み重ねが病院や地域の「文化」になるのだと思います。
そして,文化を創る原点は「教育」にあります。
「なぜ?」と疑問をもち,自ら考え,仲間と語り合い,それを次の人に伝える。その営みが続くことで,知識は文化へと変わっていきます。振り返れば,ILOHAはそのための小さな種を蒔き続ける活動だったのかもしれません。
学生として参加していた人が研修医,医師となり,今度は後輩を教える立場になりました。また,薬剤師,看護師,臨床検査技師など,多くの医療従事者にも参加していただくようになりました。新型コロナウイルス感染症のパンデミックを契機にWeb開催となり,現在では大阪を越えて,多くの仲間とともに学ぶ場へと広がっています。
Teaching is learning――教えることは,学ぶことでもある。
400回を超えるILOHAを通して,私自身が強く実感していることです。
本書には,そんなILOHAで大切にしてきた感染症のエッセンスを詰め込みました。教科書の知識を整理するだけではなく,臨床現場でふと疑問に思うこと,知っているようで説明するのが難しいこと,そして思わず誰かに話したくなる感染症の話を,第一線で活躍する先生方に解説していただきました。
本書は,最初から順番に読む必要はありません。気になったテーマを一つ開いてみてください。「へえ,そうだったのか」と思っていただければ嬉しく思います。そして,その先にもう一つ,「でも,なぜ?」が生まれたなら,ぜひもう一歩調べてみてください。その小さな疑問こそが,感染症を深く学ぶ入口になります。
感染症を学ぶことに終わりはありません。新しい病原体が現れ,新たな診断法や治療薬が登場する一方,昔から知られている感染症にも,まだ多くの謎が残されています。本書が,学生や研修医の皆さんにとっては感染症を好きになる入口となり,日々感染症診療に携わる皆さんにとっては知識と知識がつながる一冊となり,そして,それぞれの医療現場に「感染制御の文化」を広げるきっかけとなれば,これ以上の喜びはありません。
最後に,400回を超えるILOHAをともにつくってくださった講師,参加者,スタッフの皆様,そして本書にご執筆いただいた先生方に,心より感謝申し上げます。
「なぜ?」がつながると,感染症はもっと面白くなる。
この本を手に取ってくださった皆さんも,今日からILOHAの仲間です。
大阪公立大学大学院医学研究科臨床感染制御学
掛屋 弘
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