月刊薬事 2025年10月臨時増刊号(Vol.67 No.14)

緩和ケア薬ケースファイル

がん・非がん患者の症状緩和と薬剤選択の勘所

¥4,290

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●各論×症例解説で患者背景に合わせた処方提案ができる!

 

緩和医療において、薬剤師はオピオイドの使用による効果と副作用のバランス調整や、患者一人ひとりの背景にあわせた薬剤選択など、専門的な判断が求められます。
本臨時増刊号では、緩和ケアが必要ながん患者、および非がん患者における各症状の原因や、患者背景を考慮した症状緩和のための治療方針、薬剤の使い方、モニタリングのポイントなどを解説します。

編著
内田 まやこ/編
発行日
2025年10月
判型
B5判
ページ数
304頁
商品コード
91325
カテゴリ
目次

CONTENTS

 

第1章 緩和ケア総論

 1 がん患者における緩和医療と支持療法の違い

 2 緩和ケアにおける病院薬剤師の役割(薬薬連携を中心に)

 3 在宅医療と薬薬連携

 

第2章 がん患者の症状緩和と薬剤の使い方

 1 疼痛の評価と治療目標の考え方

 2 がん疼痛に対するオピオイド鎮痛薬の使い方

 3 オピオイドの副作用マネジメント

 4 オピオイドの増やし方・切り替え方(オピオイドタイトレーション,オピオイドスイッチング)

 5 オピオイドへの依存(精神・身体)と耐性,離脱症状へのアセスメント

 6 非オピオイド鎮痛薬の効果的な使い方

 7 鎮静に用いる薬剤とモニタリングのポイント

 8 がん患者のつらい悪心・嘔吐に立ち向かう

 9 食欲不振,体重減少(がん悪液質を含む)を抑えるためのサポートとは?

 10 見逃してはならない消化管閉塞への早期対応で命を守る

 11 便秘による不快感と痛みを和らげる

 12 下痢のつらさを和らげ,患者の生活の質を守る

 13 日常生活に影響を与える倦怠感

 14 呼吸困難・咳嗽の症状に早期に気づき対処する

 15 がん患者の生活に影響を与える睡眠障害

 16 せん妄の発症予防と治療で患者を支える

 17 がん患者の気持ちのつらさ(不安・抑うつ)を軽減するための支援

 18 小児緩和ケアの現状と薬剤の使い方

 

第3章 非がん患者の症状緩和と薬剤の使い方

 1 心不全

 2 慢性閉塞性肺疾患

 3 腎不全

 4 肝硬変

 5 神経疾患

 6 HIV

 7 認知症

 

第4章 ここが知りたい! 症例ケースファイル

 1 高用量オピオイド使用患者への段階的なスイッチングの提案

 2 オピオイドの増量に反応しないがん疼痛への鎮痛補助薬の提案

 3 難治性のがん疼痛にメサドンを導入する際のスイッチング方法

 4 オキシコドン製剤使用患者へのCYP3A4を強力に阻害する薬剤併用時の介入

 5 オキシコドン製剤使用患者へのCYP3A4を強力に誘導する薬剤併用時の介入

 6 フェンタニルで疼痛コントロール中に胸膜炎の増悪による呼吸困難が出現した症例

 7 少量のモルヒネで呼吸困難に効果がない患者へのミダゾラムの提案

 8 腹腔神経叢ブロック施行後に傾眠と下痢が出現した膵がん症例

 9 オピオイド導入による悪心・嘔吐に対しプロクロルペラジン投与後にアカシジアが生じた症例

 10 オピオイド導入後に排尿障害を生じた症例

 11 がん化学療法中のオピオイドと制吐薬により麻痺性イレウスを呈した症例

 12 ベンゾジアゼピン系薬の投与中止後における離脱(退薬)症状への対応

 13 ケミカルコーピングによる不適切なレスキュー薬使用患者への介入入入入

序文

 近年,医療の現場では「治す」ことだけでなく,「つらさに寄り添う」ことの重要性が,これまでになく強く認識されるようになってきました。とりわけ,がん患者にみられる疼痛,悪心・嘔吐,倦怠感,呼吸困難,不眠といった多様な症状に対する支持療法は,治療全体の質,すなわちQuality of Treatmentを高めるうえで欠かせない柱となっています。さらに,心不全,慢性閉塞性肺疾患(COPD),腎不全,神経疾患,認知症など,非がん領域の慢性進行性疾患においても症状緩和の重要性が高まっており,それに伴い医療における薬剤師の役割も大きく変化しつつあります。

 緩和医療における薬剤師の貢献は,薬剤の適切な選択や用量調整,副作用の管理,症状のモニタリングにとどまりません。医師や看護師とともに治療方針を検討し,患者一人ひとりに応じた症状緩和の戦略を構築するなど,より能動的かつ臨床的な対応が求められています。特にオピオイドの使用においては,効果と副作用のバランスのとり方や,患者背景を踏まえた薬剤の選択と使い分け,さらには終末期における身体の変化への理解など,多角的な視点と実践的な判断力が不可欠です。 本書では,がん患者および非がん患者を対象に,各症状の特徴や原因,重症度の評価,治療目標の設定から薬剤の選び方・使い方,非薬物学的ケア,モニタリングの視点に至るまで,幅広く解説しています。単なる薬効や用量の知識にとどまらず,「なぜその薬を使うのか」「どのような評価と組み合わせるべきか」といった,実践に根ざした判断軸を提示し,薬剤師の臨床思考の深化を目指しました。

 薬剤師は今や,処方監査や服薬指導といった従来の業務を超えて,チーム医療の中核を担い,患者の生活の質(QOL)向上に寄与する存在となっています。本書が,緩和医療に携わるすべての薬剤師にとって,より確かな知識と判断力を養う一助となり,患者一人ひとりの「つらさに寄り添う」臨床力を育む契機となれば幸いです。

 

2025年10月

九州大学病院教授・薬剤部長

内田 まやこ