加賀谷 肇先生(湘南医療大学 特任教授)
急速な高齢化社会の到来にあいまって、医療形態も在宅医療の推進に大きく舵取りが進み、緩和ケアに携わる薬剤師の守備範囲も、病棟薬剤業務やチームでの役割に加え、地域連携の橋渡し役へと広がってきている。一方、保険薬局のなかでは、かかりつけ薬局の機能分化を先取りして地域在宅医療に特化したコミュニティ薬局も登場してきている。
しかし、緩和ケアの専門性や知識・スキルを身につけることは一朝一夕には進まない。本書は、在宅医療、医療現場、教育現場に身を置いている薬剤師が緩和医療の担い手になるために、症例を体感しながら薬剤師の目の付けどころを学べるように工夫されている。患者アセスメントのポイントが多角的に記述されていて、入門者から上級者まで納得のいくようにエビデンスが示されている。薬剤師に求められる能力は、処方提案が具体的にできるかどうかに集約されるといっても過言ではない。
本書の特徴は、臨床経験を症例から疑似体験を通して学び、アセスメントの仕方と思考プロセスを、データをもとに提案する手法が身につくように構成されている点にある。Lesson 1「軽度の痛みに対応する」からLesson 13「苦痛緩和のための鎮静」まで55症例が登場し、巻頭の「知りたい図表がすぐわかる早見表」は便利で内容が充実しているのでビジュアル的に理解することができる。
岡本禎晃先生、荒井幸子先生の執筆・編集と、緩和医療薬学を専門とするトップランナー薬剤師、緩和医療のオピニオンリーダーである池永昌之先生(淀川キリスト教病院)からなる豪華な執筆者が本書への信頼性を高めている。緩和ケアの実践指南書として、医療現場の薬剤師、薬学教育者、緩和薬物療法認定薬剤師を目指す薬剤師、その他緩和関連の多職種にお勧めしたい一冊である。
千堂 年昭先生(岡山大学病院 教授・薬剤部長)
病室や外来で苦痛を抱える患者さんを目の前にしたとき、頭が真っ白になってしまった経験はないでしょうか。ひと通り専門書を熟読し、自分では薬の知識をしっかりと頭に入れたつもりでも、実際患者さんの前に行くと、どのように対応すればよいのか迷った経験は誰しもがおもちだと思います。
近年、わが国は超少子高齢化時代を迎え、在宅医療を含む地域包括ケアの推進など、薬剤師が多職種連携のなかで主体性をもって専門職能を発揮することが社会から求められています。緩和医療においても、早期からの症状緩和から家族ケアまで、あらゆるスキルを身につけ、社会に貢献することは喫緊の課題といえます。そのようななか、多くの緩和医療に関する書籍が出版されてはいるものの、対象とするレベルの違いなどにより、読者が求めている情報が得にくいケースにもしばしば遭遇します。
本書は、臨床の現場で緩和医療薬学をリードする執筆陣が名を連ね、より実践に則した内容となっています。セクションごとにオピオイドの導入など大きなテーマが設定され、それに関する詳細な解説と症例が提示され、読者に考えてもらう設定となっているのが特徴です。
また、患者・家族の背景など、実際に臨床で遭遇する内容も含まれており、本書を手に取った若手の薬剤師からベテランの薬剤師まで十分に読み応えのある、期待を裏切らない内容になっています。さらに本書は痛みに対する鎮痛薬のみならず、便秘や抑うつ、鎮静など、「がん緩和ケアの薬」を網羅しており、緩和医療の本質を突いた内容となっています。昨今のオピオイド鎮痛薬をはじめとする新薬も記載されており、まさに“かゆいところに手が届く”良書であります。
本書が、手に取った薬剤師の先生方の日々の業務での良い“相棒”になることを期待します。ぜひともお勧めする実用書であります。
坂本 岳志先生(あけぼの薬局在宅支援室)
本書のタイトルに「基本的知識と症例から学ぶ」とあるように、緩和ケアにおける基本的な知識や鎮痛薬の使用・注意点のみならず、緩和領域全般における薬剤の使用方法について症例を用いながらわかりやすく書かれています。緩和ケアにこれから取り組む方への入門書として十分活用できるだけでなく、緩和領域に関わる薬剤師にとって非常に有益な参考書として活用できる1冊となっています。
本書の特徴として、作用機序や薬物動態などの基本的な事項の後に臨床での使用方法や注意点が書かれており、現場に即した理解を得ることができ、また提示された症例を考えることにより、より実践的なことを学ぶことができるような作りになっています。さらには服薬指導のコツや肝機能・腎機能低下時など、実際の臨床の場で疑問やつまずきやすい問題点についても解説がなされており、実際現場で困ったときに参考とすることができると思われます。
そして鎮痛薬のみならず、全身倦怠感や食欲不振、せん妄といった実際に緩和領域で直面する症状への薬剤の使用方法も記載されており、緩和領域全般に対して理解を得ることができると思います。さらに薬剤の使用方法だけではなく、薬物療法以外の対応方法などについても記載があり、どのように対応するべきか参考となります。
最後に、各章に記載されている症例は非常に良くまとめられており、これから緩和薬物療法認定薬剤師の取得を目指している薬剤師にはぜひ読んでいただき、症例に対する介入方法であったり症例報告の記載方法であったりと参考にしていただける1冊であると感じました。