2026.10.22

腎機能に応じた最適な薬物療法を提供するために ~臨床を支えるポケットブックの歩みとこれから~

 薬物療法に携わる多くの医療従事者の皆さまにご活用いただいている『腎機能別薬剤投与量POCKET BOOK』(以下、ポケットブック)。2016年6月に初版を発行して以来、2年に1度のペースを崩すことなく改訂を重ね、2026年9月の第6版発行をもちまして、おかげさまで10年を迎えました。
 本書は、日本腎臓病薬物療法学会において作成されている「腎機能別薬剤投与方法一覧」(以下、一覧表)のデータが基になっていますが、今回、学会の作成委員会で委員長を務める浦田元樹先生(大野記念病院薬剤部長)にお話を伺いました。

腎臓病薬物療法に関わる薬剤師業務の変化と課題


――ポケットブックは初版発行から10年が経ちました。この10年間を振り返って、腎臓病薬物療法への薬剤師のかかわり方の変化や、現時点での課題などについて、どのように捉えていますでしょうか?

 この10年で、薬剤師がCKD患者の腎機能情報に触れ、処方設計に関与する機会は確実に増えてきました。保険薬局ではCKDシールやオンライン資格確認、病診薬連携による情報共有などにより患者の腎機能を把握しやすくなり、病院では多職種連携やタスク・シフト/シェアの推進を背景に、CKD患者への薬剤師のかかわりがより深まっています。こうした変化の中で、『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』にも腎機能別薬剤投与量設定の基本的な考え方が整理され、薬剤師が腎機能評価に基づいて投与量を処方提案することは、日常的な業務になりつつあります。しかしながら、一覧表に基づく画一的な提案にとどまらず、腎機能評価の不確実性や、過量・過少投与によるリスクとベネフィットを踏まえ、患者個々に応じた薬物療法全体を最適化する力については、今後も研鑽の余地があります。
 また、この間には、Four Pillarsと呼ばれる腎保護作用を有する疾患治療薬が登場し、CKD診療における薬物療法の選択肢は大きく広がりました。一方で、CKD患者は高血圧、糖尿病、心不全など複数の併存疾患を抱えることが多く、もともとポリファーマシーになりやすい患者群でもあります。したがって、Four Pillarsの効果を最大限に引き出すためには、長期間のアドヒアランス維持やシックデイマネジメントに加え、患者が使用しているすべての服用薬について、必要性、有効性、安全性、重複投与や相互作用まで含めたmedication reviewに薬剤師が積極的に関わることが、今後ますます重要です。
 そのほか、Triple whammyの概念が浸透し、回避に向けた取組みもみられるようになりました。CKD患者において薬剤性腎障害を未然に防ぐことも、薬剤師に求められる大切な役割です。さらに、腎代替療法を選択しない保存的腎臓療法(CKM)など、患者の価値観や生活の質を重視した考え方も注目されています。こうした場面でも、薬剤師には薬物療法の整理や減薬の検討、症状緩和に用いる薬剤の適切な使用などを通じて、CKD患者を支える役割が期待されます。

ポケットブックの誕生と改訂を支える体制


――日本腎臓病薬物療法学会において、一覧表が作成された経緯と目的について、改めて教えてください。

 私はポケットブックの第3版から携わっていますので、以下は伝聞になります。初代理事長である平田純生先生らが日本腎臓病薬物療法学会を設立された際、『透析患者への投薬ガイドブック』や白鷺病院の『透析患者に対する投薬ガイドライン』を基に、まず「腎機能低下時に最も注意が必要な薬剤投与量一覧」が作成されました。その背景には、腎機能低下患者において、本来減量が必要な薬剤が適切に減量されず、有害事象に至る事例が後を絶たないという問題がありました。こうした有害事象は医原病であり、私たち医療従事者が防いでいかなければなりません。一方、臨床現場では膨大な医薬品の中から、腎機能に応じた減量が必要な薬剤かどうかを迅速に判断し、適切な投与量を提案することが求められます。そのため、腎機能低下時に注意すべき薬剤の投与量を、現場で活用しやすい形に整理する必要があると考えられました。当時は、GFR又はCCrを5mL/min刻みにし、CKD重症度分類のGFR区分に応じたきめ細かな投与量を設定することに苦労されたと伺っています。
 その後、「腎機能低下時に最も注意が必要な薬剤投与量一覧」を出発点に、対象薬剤の追加や情報の充実が重ねられ、現在の一覧表として学会誌に掲載されるようになりました。さらに、腎機能別薬剤投与量の考え方をより広く普及させ、臨床現場で手に取りやすい形にするため、ポケットブックが出版されました。ポケットブックでは簡便さを重視し、腎機能別薬剤投与量など処方設計に最低限必要な情報を中心に掲載しています。一方、患者個々に応じた処方設計に必要になる薬物動態などの詳細な情報は学会員向けに提供することで、学会誌とポケットブックの役割を分ける形になりました。


――毎年多くの新薬が発売され、既存の薬剤でも腎臓と関連する研究や報告がある中で、一覧表をアップデートするのは大変な作業だと思いますが、どのような体制で取り組まれているのでしょうか?

 一覧表作成委員会は、私のほか、竹内裕紀先生(東京医科大学病院薬剤部)、平田純生先生(合同会社平田の薬剤師塾)、古久保拓先生(白鷺病院薬剤科)の4名で構成されています(2026年9月現在)。少人数ではありますが、腎臓病薬物療法領域を牽引されてきた先生方にご参画いただき、私が新薬の追加や最新の知見に基づく改訂案を提示したうえで、委員間で内容を確認しながら改訂を進めています。
 改訂案の作成にあたっては、添付文書改訂、新薬承認情報、主要なガイドラインや総説、薬物動態に関する新たな報告などを確認し、腎機能低下時の投与設計に影響する情報を整理しています。特に、新薬については発売時点で情報が限られる場合もあるため、国内外の添付文書や規制当局の情報、類薬の知見も参考にしながら、臨床現場で安全に活用できる記載となるよう慎重に検討しています。
 また、実臨床をより反映するため、癌領域では山本和宏先生(岡山大学学術研究院医歯薬学域(薬学系)臨床基礎統合薬学分野)、感染症領域では佐村優先生(帝京平成大学薬学部)と三星知先生(下越病院薬剤課)にアドバイザーとしてご意見を頂いています。実際に、今回のポケットブックでも、癌領域では海外のガイドラインや総説を追記し、感染症領域ではPK/PDに基づく記載や、敗血症における入院後48時間までの減量回避などの改訂につながりました。最終的には、委員間で記載内容を確認し、臨床現場で誤解なく使える表現や、一覧表全体としての整合性に注意しながら改訂を進めています。


――一覧表の作成にあたって、ご苦労されている点やこだわっている点について教えてください。

 一覧表を作成するにあたっては、エビデンスレベルを強く意識しています。一覧表は臨床現場で投与量を検討する際の参考資料として広く活用されていますが、診療ガイドラインの作成で求められるようなシステマティックレビューなどの手法に基づいて作成しているものではありません。また、腎機能別薬剤投与量に関するエビデンスは必ずしも十分ではなく、提示している投与量に対して一律に明確な推奨度を付けることは難しいのが実情です。そのため、血中濃度変化などを踏まえて委員会として投与量を提案しているものには、専門家の意見として「Expert Opinion(EO)」の表記を付けています。また、生理学的薬物速度論(PBPK)解析に基づく投与量の論文についても、その旨を明示して引用しています。
 一方で、できるだけ信頼性の高い情報を反映するため、米国食品医薬品局(FDA)や欧州医薬品庁(EMA)といった規制当局の情報に加え、海外を含む他学会のガイドラインからも投与量を収集するようにしています。ただし、情報源によって腎機能区分や対象患者の条件が異なるため、単に投与量を引用するのではなく、その前提を確認したうえで、一覧表として整合性のある形に整理することに注意しています。根拠が限られる薬剤では、過量投与を避ける安全性と、過少投与による治療効果低下の両方を意識し、臨床で判断しやすい記載となるよう心掛けています。読者の皆さまには、一覧表に示された投与量だけでなく、その根拠となるエビデンスレベルにも目を向けて頂きたいと思います。

臨床現場での活用と今後の展望


――ポケットブックの発行によって、学会員限定であった一覧表の存在が多くの医療従事者に知れ渡り、病院・薬局を問わず臨床現場で活用されるようになっています。読者の反響などは先生に届いていますか?

 多方面から一覧表の投与量に関する質問を頂いており、ありがたいことに多くの方々に活用頂いていることを実感しています。質問の内容からも、病院だけでなく保険薬局を含めた幅広い現場で、腎機能に応じた投与量設定への関心が高まっていることを感じます。


――一覧表の記載内容は更新の都度に充実が図られ、ポケットブックでは第4版から「検索WEB」が付録として実装されました。今後の更なる進化に向けた展望があれば教えてください。

 今回、腎機能低下患者への投薬において、投与法以外の注意点を「注記」として記載しました。一覧表そのものの更なる進化について、現時点で具体的にお示しできるものは多くありませんが、今後も利用者の皆さまからのご意見を頂きながら、必要な改訂を重ねていきたいと考えています。
 一方で、一覧表の活用方法については、利便性をさらに高める余地があると思います。例えば、チャットボットのような仕組みを用いて、必要な情報により直感的にアクセスできるようにすることも、一つの方向性として考えられます。その際には、患者の腎機能や透析の有無、併用薬などの背景に応じて必要な情報へたどり着けるようにするとともに、根拠や前提も確認できる仕組みであることが重要だと考えています。ポケットブックの付録としての改良には限界がありますので、電子診療録システムやアプリの開発などに一覧表を活用して頂くことも期待しています。なお、一覧表はテキスト(CSV)形式で提供される電子データとしても販売しています(https://www.jiho.co.jp/pages/jsnp)。

読者へのメッセージ


――ありがとうございました。最後に、ポケットブックの読者にメッセージをお願いします。

 ポケットブックをご利用頂き、ありがとうございます。CKD患者の適切な投与量設定や薬剤性腎障害の回避に、本書を活用して頂ければ幸いです。また、腎機能別薬剤投与量設定の基本を学習したい方は、本書の「腎機能の適切な評価」をぜひお読みください。新薬だけでなく既存薬についても記載を見直している場合がありますので、過去の版で確認した薬剤であっても、必ず最新版を参照して頂きたいと思います。最後に、腎機能別薬剤投与量に関するエビデンスはまだ限られています。ぜひ一覧表を臨床や研究の中で検証し、その成果を発信して頂ければと思います。

腎機能別薬剤投与量 POCKET BOOK 第6版

定価4,290円(本体3,900円+税10%)

臨床の迷いを解決する、日本腎臓病薬物療法学会のデータブック最新の第6版

2016年に初版を刊行して以来、多くの皆様にご活用いただいております『腎機能別薬剤投与量 POCKET BOOK』は、今回の第6版をもちましておかげさまで10年を迎えました。 「患者に投与したい薬剤・処方された薬剤は果たして減量が必要なのか?」「腎機能に応じた至適用量はどのくらいか?」が一目でわかる、大好評のGFR又はCCr5mL/min刻みの一覧表形式を継続しつつ、第6版では記載が煩雑になっていた薬剤のレイアウトを見直して読みやすくするとともに、「注記」の欄を新設し、腎機能低下患者への投薬において、投与法以外の注意点を記載しています。ポケットサイズの書籍とWEBサイト『薬剤検索WEB』を併せてご利用いただくことで、より一層、臨床業務を強力にサポートします!
*購入者限定特典『薬剤検索WEB』のご利用期間は本書の発行日から次版発行まで(おおよそ2年間)となっています。

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