2026.07.10

【山本雄一郎のWebエッセイ】その薬歴に患者はいますか?

 広島県薬剤師会から、1カ月前に行った講演のアンケート結果が届いた。内容、満足度ともに上々だったようで、まずはほっとしている。最近の講演はリアルとオンラインのハイブリッド形式がほとんどで、会場にいる限られた参加者の反応しか目にすることができないから、このようなフィードバックはとてもありがたい。

 せっかくなので、講演当日に受けた質問やアンケートに寄せられた感想などを踏まえた忘備録をここに記しておきたい。

薬歴に求められる「2つの軸」

 まず、「薬歴の書き方、薬学管理」をテーマにした講演会に呼ばれたわけだから、講演の冒頭で僕のスタンスをはっきりと示しておくべきだった。というのも、個別指導に耐えうる薬歴の書き方について質問を受けたからだ。当然といえば当然で、薬歴の講演がひさしぶりというのもあって、そのことをすっかり失念してしまっていた。

 薬歴のスキルアップを目指すとき、2つの軸があることに注意する必要がある。ここで僕はいつも日本医療保険研究所の入江真理先生から拝借している図を提示する。2つの軸、それは保険薬剤師としてのスキルを示す縦軸、そして薬剤師としてのスキルを示す横軸だ。

 縦軸は、保険制度上の要件に対する理解度・スキルを表す。健康保険法や薬担規則、調剤報酬、保険適用に対する理解などがこれに相当し、これらを十分に理解していなければ、個別指導で指摘を受ける結果となってしまう。残念ながら、僕の講演ではこの縦軸のスキルは身につかない。縦軸に関しては、ある一定以上の理解が求められているわけで、そこは各社の電子薬歴のサポート機能にも期待している。

 対して横軸は、薬学的知識や疾患の理解、そして各種ガイドラインといったものを目の前の患者にどう適用し、処方された薬物療法をどのように個別最適化していくのか。この臨床的な思考プロセスこそが薬剤師としてのスキルで、僕の講演でのテーマとなる。そこからProblem Orientedな考え方を紹介し、POSを実践することがすなわち継続的な薬学管理であるという話に展開していく。

Do処方で手が止まる理由

 『誰も教えてくれなかった実践薬歴』の初版を発刊したのが2018年。専門書にしてはかなり売れたのではないだろうか。それから6年後の2024年に改訂版を送り出したわけだが、当時も今も現場の多くの薬剤師はお馴染みの問題に直面していた。

「いつも同じ薬なので薬歴に書くことがありません」
「Do処方のときは薬歴を書く手が止まってしまう」

 つまり、この悩みは今もなお現場に残り続けているということなのだ。しかし、裏を返せば「(Do処方のときには、)薬学的な経過観察ができません」「薬学的なアプローチがわかりません」と白状しているのとなんら変わりがないわけで、ここで立ち止まっているわけにはいかない。そんなことではプロブレムの抽出には至らないわけで、POSのサイクルを回し、継続的な薬学管理を実践することなどまだまだの状態なのだ。アンケートでは、この点に関して「Do処方でも充実した(次につながる)薬歴が書けると自信が持てた」とあり、胸をなでおろしている。

 薬歴はただ患者との会話や指導記録を残しているだけではなく、思考プロセスそのものを記録している。そして、そのためにSOAPというフレームは存在する。つまり、なぜ薬歴がSOAP形式で記録されるのかが腑に落ちていなければ、この思考方法は使えないわけで、SOAPで考えていないものをSOAPで書こうというのは無理がある。ゆえに、手が止まる。

AIには代替できない「患者」という視点

 最近の薬歴の講演では、必ずといっていいほど、電子薬歴のAI機能の話題になる。すべての電子薬歴システムについて把握しているわけではないが、僕のAI機能に対する考えは過去のエッセイで紹介しているので、そちらを参照してほしい。ちなみに、AIそのものに関しては日々の業務にも取り入れていて、AIが提示する答えを鵜吞みにすることなく、いわゆる壁打ちの相手として対話しながら使えばいいと考えている。

 講演の最後のスライドは、いつものフレーズだ。

「薬歴の中に患者はいますか? そこに薬学はありますか?」

 この問いかけは参加者の心にも深く残ったようだった。この問いかけをときどき思い出しながら、日々の薬歴に向き合ってもらえたら幸いだ。


<講演のお知らせ>
2026年7月30日開催の「薬剤師力向上オンラインセミナー」に登壇します。薬歴の書き方や継続的な薬学管理について、実践的にお話しします。ぜひ!

日 時:2026年7月30日 19:30~21:05
演 題:実践薬歴講座 ~薬歴の書き方と継続的な薬学管理について~
申込み:こちら

誰も教えてくれなかった実践薬歴 改訂版

定価3,520円(本体3,200円+税10%)

薬歴を見れば、その薬剤師の「仕事の質」がわかる!

本書は、薬歴の基本的な書き方・考え方に加えて、薬歴を通した薬学的管理の実践的な考え方を症例ベースで解説。よくある症例であっても、患者情報や薬剤師の考え方によって服薬指導が変化することを実践的に例示します。
改訂版では、電子薬歴や薬機法改正に対応するとともに,診療ガイドラインなどを最新の情報にアップデートしました。新人・若手から、大学で医療記録について学んでこなかったベテランまで、すべての薬剤師におすすめの1冊です。

山本 雄一郎(やまもと ゆういちろう)

1998年熊本大学薬学部卒。製薬会社でMRとして勤務した後、株式会社ファルマウニオン(本社:福岡市城南区)の前身である有限会社アップル薬局に入社。2014年1月から日経ドラッグインフォメーションOnlineコラム「薬局にソクラテスがやってきた」を連載(全100回)。2017年3月『薬局で使える実践薬学』(日経BP社)、2022年10月誰も教えてくれなかった実践薬学管理』(じほう)、2024年3月『ソクラテスが贈る若手薬剤師研修テキスト~薬局薬剤師として輝くために~』(kindle)、2024年9月『誰も教えてくれなかった実践薬歴 改訂版(じほう)を発刊。2017年4月より熊本大学薬学部臨床教授、同年8月より有限会社アップル薬局の代表取締役に就任。2024年1月より合同会社ファーマエディタ代表社員。有限会社アップル薬局の吸収合併に伴い、2025年1月より株式会社ファルマウニオンの代表取締役に就任。

@kumamotoPh usan_appleph

シェア