どんなセッティングでも応用できる

大路のロジックで紐解く感染症診療

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●3つの情報源(病歴・自覚症状、身体所見、検査)から鑑別診断を絞り込む!

鑑別診断のなかで感染症を疑う場合の適切な感染臓器の推定、および治療の選択などのいわゆる「一般感染症診療」は、 2018年から診療報酬に導入されている抗菌薬適正使用支援加算を考えていくうえで非常に大切な要素です。しかし、旧来の感染管理を中心としていた医療関係者にはややなじみが薄く、どのように取り組んでいったらよいのか戸惑っている方も少なくありません。そこで、本書では知っておくと日々の業務が楽しくなる抗菌薬適正使用支援につながる感染症診療のコツとして、できる限り簡単に「一般感染症診療」を解説します。

編著
大路 剛/著
発行日
2025年8月
判型
A5判
ページ数
328頁
商品コード
56723
ISBN
9784840756723
カテゴリ
目次

第1章 診断の基本知識

第1回 医療職の役割分担~それぞれの得意分野とフィールド~

 人が医療機関を受診するということ

 医療の流れとチーム医療

 医 師

 看護師

 薬剤師

 理学療法士・作業療法士

 臨床検査技師

 医療ソーシャルワーカー・医療事務

第2回 鑑別診断を絞り込む~患者から得られる3 つの情報源~

 鑑別診断を絞り込むための3 つの情報源

 3つの情報源の特徴

 ─①病歴・自覚症状,②身体診察,③検査

第3回 3つの情報源からあげる鑑別診断

 患者から得られる3・つの情報源

 鑑別診断をあげる=異常の原因を考察する

 病歴・自覚症状からは漏れなく鑑別診断をあげる

 緊急性の高いサイン=レッドフラッグサインにまず注意

 代表的な痛みのレッドフラッグサイン

第4回 身体所見の王様バイタルサイン

 「情報源Ⅰ.病歴・自覚症状」が使えない場合の診断方法

 「情報源Ⅰ.病歴・自覚症状」が使えなければバイタルサインの異常に注目する

 バイタルサインから鑑別診断をあげる

 ショックと血圧低下

 血圧低下の鑑別診断

 低酸素血症の鑑別診断

 意識状態悪化の鑑別診断

 低体温および発熱の鑑別診断

第5回 バイタルサイン以外で最低限知っておきたい身体所見

 バイタルサイン以外の身体所見

 感度・特異度,検査前確率・検査後確率に尤度比(LR)

 身体所見の信頼度

 代表的な身体所見の解釈・

第6回 検査の基本と観察戦略

 感染症の検査

 患者の観察戦略

 診断での情報源Ⅲの使い方──検査を分類する

 検体検査

 画像検査・生理検査

 

第2章 感染症診断入門

第1回 感染症のトライアングル~感染臓器の探し方~

 感染症のトライアングル

 感染臓器の探し方──哺乳類を守る2・つのバリア

 物理バリアの弱い感染臓器5・点セット

 追加で検索する物理バリア破綻を起こす臓器

 免疫バリアの破綻

 感染臓器と病原微生物の関係

第2回 病原微生物の話~細菌と真菌~

 病原微生物の大まかな分類とその特徴

 細 菌

 抗酸菌・Nocardia 属・Actinomyces 属

 真 菌

第3回 病原微生物の話~感染臓器がわかりにくいウイルス感染症~

 ウイルスの複製システム

 ウイルスは細菌,真菌,寄生虫(原虫・蠕虫)とは異なる

 ウイルス感染からウイルス複製の流れ

 抗ウイルス薬の仕組み

 ウイルス感染症の診断が難しい理由

 初感染のウイルスと症状

 持続感染──慢性感染と潜在感染

 COVID-19

第4回 感染症に抗菌薬が効かない? ときに考えること

 細菌に抗菌薬が効かないとは

 β-ラクタマーゼのAmbler・分類

 β-ラクタマーゼ阻害薬

 抗菌薬への耐性獲得の方法

第5回 発熱診断症例練習①~自覚症状を伴う発熱~

 発熱疾患の診断

 発熱患者全員に基本スタイルを当てはめることは難しい

 発熱と咽頭痛へのアプローチ

第6回 発熱診断症例練習②~自覚症状を伴わない発熱~

 自覚症状のない発熱の感染症では語呂合わせ

第7回 発熱診断症例練習③~治療を始めたけど良くならない感染症~

 治療を始めたけど良くならない感染症

 良くなっていない場合の考え方

 細菌性肺炎の一般的な経過

第8回 寄生虫疾患入門

 寄生虫疾患とは

 寄生虫疾患は特殊な感染症か?

 寄生虫疾患の分類

 寄生虫感染症

 原虫症

 線虫症

 吸虫症

 条虫症

 未承認薬の管理

 

第3章 症例から振り返る鑑別診断へのアプローチ

 Case1 2つの疾患が同時に発症:COVID-19+急性虫垂炎

 Case2 自覚症状のない発熱①:PR3-ANCA 陽性の日本紅斑熱

 Case3 自覚症状のない発熱②:感染性心内膜炎

 Case4 自覚症状のない発熱③:身体所見で除外できなかった軟部組織感染症

 Case5 自覚症状のない発熱④:尿路感染症

 Case6 意識がはっきりとしない感染症①:市中発症の好中球減少症による緑膿菌敗血症

 Case7 意識がはっきりとしない感染症②:自覚症状のない無石胆嚢炎

 Case8 精神科ミミック:結核性髄膜炎

 Case9 気がつかない液性免疫不全:多発性骨髄腫

 Case10 気がつかない細胞性免疫不全:ニューモシスチス肺炎

 Case11 国外渡航者の発熱①:急性骨髄性白血病

 Case12 国外渡航者の発熱②:マラリア

 Case13 国外渡航者の発熱③:チフス菌の菌血症とジアルジア症による下痢症

 Case14 原因不明の循環動態破綻:毒素性ショック症候群

 Case15 打撲後に同部の疼痛:壊死性軟部組織感染症

 Case16 画像検査・臨床検査で診断できない急性咳嗽:百日咳

 Case17 髄液検査正常:髄膜炎菌性髄膜炎

 Case18 COVID-19 ①:急性肺炎

 Case19 COVID-19 ②:慢性肺炎

 Case20 自覚症状・身体所見・検査所見いずれでも診断困難:急性胆管炎

 

第4章 病原微生物から身を守るための方法

 能動免疫・受動免疫・化学予防それぞれの利点と欠点

 免疫グロブリン製剤

 COVID-19・RS ウイルスへのモノクローナル抗体製剤

 化学予防

 ワクチンの品質管理

 生ワクチンと不活化ワクチンの利点と欠点

 mRNA ワクチン・ウイルスベクターワクチン

 ワクチンの接種方法

 生ワクチンと免疫不全

 ワクチン接種のタイミング

 ワクチン同士の接種間隔

 ワクチンと生物学的製剤の投与間隔

 予防接種の種類

 予防接種のやりなおし

 

第5章 職場の労働安全衛生管理と院内感染対策

 事業場の労働安全衛生管理

 労働安全衛生管理に関わる法令

 労働安全衛生管理システム

 事業場のリスクアセスメント

 リスクの見積もり

 マトリクス法

 重篤度と発生頻度の評価

 安全委員会・衛生委員会

 衛生管理者と産業医の巡視

 院内感染対策と労働安全衛生管理のすり合わせ

 病原微生物についての労働安全衛生管理

 作業管理・作業環境管理と健康管理

 労働安全衛生教育

 起こってしまった労働災害の治療と保険の給付

 おわりに

序文

はじめに

 

 皆さんは「感染症」と聞くとどのような疾患を想像しますか? やはり,世界を席巻したSARS-CoV-2によるCOVID-19やインフルエンザウイルスによるインフルエンザでしょうか? それとも身近でよく聞く誤嚥性肺炎でしょうか? 感染症とはこのような病原微生物によって起こる疾患ですが,COVID-19で注目を集めた感染症科とはどのような診療科でしょうか。そして,どのような仕事をしているのでしょうか。

 実は,診療科としての感染症科は日本では古くからあるものです。日独戦争のおりに初めて遠洋航海にあたって徴用された海軍病院船である「八幡丸」の病室は6 種類あり,その内容は戦傷,外科,内科,伝染病科,伝染病隔離病床と癲狂室(精神病床)というように,すでに軍隊では分割されていました1)。この分類は,その後の日本海軍の病院船でも受け継がれています。また,軍隊以外では,1892年に大日本私立衛生会附属伝染病研究所が設立され,その後に東京帝国大学附置伝染病研究所として文科省に移管されたのが教育および研究機関としての感染症科のはじまりともいえそうです。

 一方,明治時代には麻疹などの致死的なウイルス感染症,インフルエンザのときおりの流行に加え,肺結核やマラリアなど常に非常に多彩な感染症が日本国内で猛威を振るっていましたが,病院において他の外科系診療科,内科系診療科のように感染症科が臨床部門として独立することはありませんでした。現在は一応,感染症科という言い方はありますが,多職種で行う感染制御部門のことを指すのか,主治医として患者治療を行うのか,働き方はさまざまです。そうしたなかで,現在の日本の感染症の仕事は大きく以下の3 つに分類できます。

 

1.感染管理

 主に患者→患者間,医療従事者→患者間の院内感染対策です。医療安全の側面が中心となり,感染防止対策加算の対象がここです。

2.さまざまな病原微生物への曝露対策

 いわゆる針刺し事故対策など,患者→医療従事者間での曝露対策です。医療現場という事業場での労働安全衛生管理が中心となります。感染防止対策加算などの対象となる業務の一部も含まれます。

3.いわゆる臨床感染症

 HIV や熱帯感染症など感染症専門医が中心に取り扱う領域に加え,鑑別診断のなかで感染症を疑う場合の適切な感染臓器の推定および治療の選択など,いわゆる「一般感染症診療」の部分です。抗菌薬適正使用支援の中心がこの後者の部分になります。

 

 本書では,この3 つのなかで主に3.の臨床感染症のなかで「一般感染症診療」の部分を中心に述べていきます。この一般感染症診療は2018 年から診療報酬に導入されている抗菌薬適正使用支援加算を考えていくうえでは,非常に大切な要素です。しかし,旧来の感染管理を中心としていた医療関係者にはややなじみが薄く,どのように取り組んでいったらよいのか戸惑っている方も少なくないでしょう。そこで,知っておくと日々の業務が楽しくなる抗菌薬適正使用支援につながる感染症診療のコツとして,できる限り簡単に一般感染症診療を解説していきます。

 

2025 年8 月

神戸大学医学部附属病院感染症内科/神戸大学都市安全研究センター

大路 剛