第1章　児童精神科診療

1．子どもを支えるときの基本的なこと

2．児童思春期の入院治療①　病棟の時間・空間・集団論

3．児童思春期の入院治療②　子どもが示す態度と治療者の心構え

4．子どものこころの診察①　予診編

5．子どものこころの診察②　初診編

6．なぜ開放病棟であることが大切か

7．認知行動療法の基本

8．児童精神科医という仕事

第2章　子どもと精神疾患

1．子どものうつ病と自殺

2．子どもの拒食症

3．ADHDの特徴と診断

4．ADHDの治療と治療薬

5．ADHDと睡眠の問題を考える

6．自閉スペクトラム症

7．自閉スペクトラム症に対する補完代替医療

8．黙する子どもたち

9．抜きたくないのにやめられない抜毛症

10．手洗い，確認が止まらない強迫症

11．児童思春期の統合失調症

12．子どもにみられる睡眠障害と睡眠薬

13．子どもへの睡眠衛生指導

第3章　薬物療法

1．子どものメンタルヘルスにおける薬物療法

2．ADHD治療薬の特徴とリスデキサンフェタミン

3．児童思春期に効果を認めない抗うつ薬たち

4．適応が限られている抗精神病薬の使われ方

5．抗精神病薬の副作用と注意点

第4章　子どもを巡るさまざまな問題

1．不登校・ひきこもりと青年期のこころ

2．児童虐待とメンタルヘルス

3．児童虐待とトラウマ治療　症例：大庭葉蔵

4．エナジードリンクは子どもにどんな影響を与えるか？

5．災害に遭った子どもたちと支援のあり方

6．No Game No Life　楽しくなければゲームじゃない

7．ゲーム行動症の特徴と治療法の模索

8．情報あふれる電脳社会と意思決定支援

第5章　多職種の連携

1．心理職と子どもたちとの関わり

2．多職種連携の必要性と実践

3．精神保健福祉士と子どもたちとの関わり

4．看護師と子どもたちとの関わり

桝屋二郎先生（東京医科大学精神医学分野 主任教授）

　筆者は日本を代表する児童精神科医療機関の一つである国立国府台医療センターの児童精神科部門を率いる気鋭の児童精神科医である。私も筆者の豊富な臨床経験と研鑽に裏打ちされた深い見識にずいぶんと教えられてきた。本書はそういった筆者の充実した知見をエッセンスの形で学べる良著である。

　子どもの心に携わる支援者にとってわかりやすい解説書籍はこれまでにも存在したが，ここまで児童精神科のほぼ全領域を最新の知見や筆者の臨床観や臨床感覚を盛り込みながら提供してくれた良書は初見であった。不登校・ひきこもりといった従来からの大切なテーマのみならず，ゲームやエナジードリンクといった依存や嗜癖，災害，こういった従来の解説書ではあまり触れられてこなかった話題にも触れて，現代の子どもたちの心の支援をするにあたって必要な領域をほぼすべてカバーしていることは特筆すべき点であろう。

　多職種支援をはじめとした社会での支援についても充実した解説がなされており，児童精神科を目指す医師のみならず，児童思春期の子どもたちの支援に携わる教育・福祉・行政・司法・医療といった多職種の方々にもよく活用していただけると思う。

　そのうえで私が強調したいことは，子どもの支援者のみならず，成人の支援者にも読んでもらいたいということだ。筆者の大切にしている臨床観の一つに「いま，この時点でこの人がこういった症状を呈していることには必ず意味がある。その意味を探って，治療や支援を考える必要があるのだ」というものがある。この考えには私もまったく同感で，たとえ成人の患者さんであっても，その人には子ども時代を含めた歴史や背景があり，その歴史や背景を考えながら支援を展開したほうが明らかに良質の支援を構築できるのだと感じてきた。本書はその臨床観も裏打ちされて書かれている。成人である被支援者の歴史や背景を考えながら支援を展開するためには，その人の子ども時代の心についても正しく知る必要があり，本書ほどその助けになる良書はないと私は考えている。

　ぜひ，多くの人に一読いただきたい。

　ああ，恥ずかしい話です。私は深く考えもせず「子どものメンタルヘルス」をテーマとした連載を引き受けてしまい，それを何度も何度も後悔いたしました。連載とは，誠につらいものです。月が巡るたび，次の締め切りがひたひたと迫りくる様に私は打ちのめされました。国語の授業で居眠りしてしまった文豪の皆様，私は心から，いや，もう全身全霊で尊敬申し上げます。

　しかし，そんな私でも，連載を執筆することで児童精神科という現場の小さな灯火として，少しでもこの複雑なメンタルヘルスの問題に光を当てることができるのではないかと，どこかで自分を奮い立たせて参りました。専門知識を平易に伝えることに苦心し，言葉を選び抜きましたが，どうにも私の国語力の乏しさが浮き彫りになり，結局のところ編集者の吉岡さんにおんぶに抱っこでございました。そんな拙い文章でも，3年間の連載が形として結実したことは，いまでも不思議でたまりません。

　診療の毎日から得た経験を，子どもたちの悩みに寄り添うものとして描き出し，医療従事者だけでなく，親御さんや教育に携わる方々にも何かしらの理解を伝えたい，そう思い続けていたのです。その連載をもとに加筆・修正をした本書は，子どもを多職種で守り・育てていくという国府台病院児童精神科の長い歴史（その間に何度病院名が変わったか！）と，齊藤万比古先生をはじめとする偉大なる先輩方の指導に支えられ，まさにここに成り立っているものです。私もまた，子どもたちの心に寄り添うなかで，現代の家庭や教育現場が抱える問題に直面し，さまざまな視点を得る貴重な機会となりました。

　最後に，本書には，私が卒後すぐに入局した精神神経医学講座の教授であられた神庭重信先生より教わった精神医学の基礎と，国府台病院で学んだ児童精神科臨床を骨子として，私なりに最新の治療や支援についての知見を散りばめたつもりです。実生活に少しでも役立つものとなっておれば，それ以上の喜びはございません。どうか，子どもの心の健康に関心をもつすべての方に，この文章を手に取っていただければと願ってやみません。

国立研究開発法人　国立国際医療研究センター国府台病院

児童精神科診療科長／子どものこころ総合診療センター長／心理指導室長

宇佐美 政英