私は毎年5月頃、当院の1年目の初期研修医を対象に「カルテの書き方」のレクチャーをしています。
ちょうどカルテの記載に迷う時期なのか、「すごくわかりやすかった」と言ってもらえることもあり、実際、研修医の皆さんのカルテもレクチャー前よりわかりやすくなったと思うので、多少は役立っているのかなと考えています。
なぜ呼吸器内科医である私が「カルテの書き方」の本を書くようになったのか、不思議に思う先生もいるかもしれません。私自身、もともとカルテの書き方に興味があったわけではなく、これまで誰かに系統立てて教えてもらったこともなく、何となくカルテを書いていました。
一方で長年、臨床研修病院に勤務していたため、研修医の先生と接する機会が多く、おのずと彼らのカルテを見ることが多くなりました。毎年見ていると、1年目の研修医の先生は、特に4~5月頃は新しい環境に対応するのが手一杯で、カルテの書き方はお世辞にもいいとは言いがたい状況です。
しかし、少しコツを伝えるとびっくりするくらい成長したカルテになり、とても驚かされます。このようなことを繰り返すうちに、最初から最低限のことを伝えておけば、研修医の先生も、それを指導する各科の指導医の先生も助かるんじゃないかと考えるようになりました。
そこで、自分なりに勉強してカルテの書き方のコツを伝えるようになり、院内でもレクチャーをする機会をいただき、それを病院のHPにも載せるようになったところ、じほうの方からメールをいただきました。正直、最初は半信半疑でしたが、「自分の病院の研修医だけでなく、全国の研修医にも同じように迷える子羊たちがいるのではないか(笑)。そういう人たちの役に立てるなら本望だ」と思い、思い切ってお話を受けることにしました。
お話をいただいたのが2021年6月で、コロナ禍の真っ只中でした。呼吸器内科はコロナ診療の最前線で戦っていましたので、コロナの波が下火になったら原稿を書く、流行してきたらお休みということを繰り返していたため、完成までに1年8カ月という期間がかかってしまいました。仕事中心でただでさえ家族で過ごす時間が少ないうえに、書斎にこもりがちになった私に、時に厳しく、時に優しく寄り添ってくれた妻に感謝しています。
研修医向けの本を書くにあたり、研修医からのフィードバックをもらうことは必要不可欠でした。原稿全般にわたって、研修医目線での率直かつ的確な意見をくれた平山龍太郎先生(本書に登場するイラストは彼がモデルです)、外科領域の「継ぎ足しカルテ」のキーワードをくれた奈路田悠桃先生、その他にも意見をいただいた松山赤十字病院の研修医の先生のサポートなしには、真に研修医の求める内容にはならなかったと思います。この場を借りてお礼を申し上げます。
本書は一般論だけでなく、できる限り具体例を挙げ(Before & After、説明文書,研修医がカルテをうまく書けない理由など)、現場ですぐに使ってもらえるように配慮しました。また、IC(インフォームドコンセント)記録では、現場の空気感も伝えられるように踏み込んで記載しました。これらは他書にない本書の特徴だと自負しています。
さらにコラムでは、カルテにまつわるよもやま話に加え、勉強する機会が少ないレセプトの仕組み、コロナ禍で変わった医療制度など、Updateした内容を盛り込みました。
文章としての一貫性を保つため、筆者のみで作成したため、すべての分野をカバーできていなかったり偏りがあったりするかもしれません。読者諸氏からのご批判を仰ぎたいと思います。
本書は、研修医の皆さんが“カルテの書き方で無用な苦労をすることなく、楽しい研修生活を送ってもらえたらいいな”という思いで書いた、研修医目線の「カルテの書き方」に関する本です。また、指導医の先生方にとっても、研修医指導のお役に立てていただける書籍だと考えています。
肩肘張らず、気軽な気持ちで読んでいただければ嬉しいです。
松山赤十字病院
牧野 英記