やさしいひと押しが世界を変える

薬剤師が教える行動経済学

¥3,300

●日常生活で損をしないための、ちょっとしたコツを教えます!
●患者対応も薬局業務も、全部頑張りたいあなたに。「薬剤師力」がみるみるUPする1冊!
●“もったいない対応”を“はなまるの対応”に変えるテクニックとは?

 

人は必ずしも合理的に判断するわけではなく、日常生活において無意識のうちに、さまざまなバイアスの影響を受けています。
本書では、プロスペクト理論や現状維持バイアス、ナッジなどの考え方をもとに、調剤業務や服薬指導、OTC医薬品の販売、実務実習生の指導、クレーム対応など、あらゆる場面で役立つ実践的なテクニックを紹介しています。
「どうして伝わらないのだろう?」「なぜ行動してくれないのだろう?」という悩みを行動経済学の視点からやさしく紐解き、“もったいない対応”を“はなまるの対応”へと変化させ、「薬剤師力」を高めることができる1冊です。


編著
鈴木 伸悟、森元 能仁、井上 能博/著
発行日
2026年6月
判型
A5判
ページ数
208頁
商品コード
57249
ISBN
9784840757249
カテゴリ
目次

序 なぜ行動経済学が薬剤師に必要なの?

1            もっと知って そして使おう 行動経済学

2            薬剤師×行動経済学=最強のヘルスナビゲーター

3            プラス行動経済学→生産性の向上

 

第1章 行動経済学で患者心理を紐解く

1            日常に潜む判断・決断するときのクセ(バイアス)

2            服装や髪型が自由化されても身だしなみが大切な理由――ハロー効果

3            ジェネリック医薬品への変更を拒否する患者――現状維持バイアス

4            ネガティブな情報のみに基づき薬を使いたがらない患者――利用可能性ヒューリスティック

5            服薬アドヒアランスが不良な患者――プロスペクト理論(損失回避バイアス,フレーミング効果)

6            副作用の恐れのある薬を飲み続ける患者――サンクコストバイアス

7            血圧が高くても塩分の多い食事をやめられない患者――現在バイアス

8            「中間を選びやすい」を活用した販売テクニック――極端回避性

9            情報が多すぎて適切なOTC医薬品の選択ができない来局者――情報過剰負荷

10          購買意欲を高めるPOP作成のポイント――アンカリング効果

11          症状の原因を薬剤の副作用と決めつけ,その根拠ばかり集める薬剤師――確証バイアス

 

第2章 薬剤師によるナッジの活用

1            ついそうしてしまう行動をデザインする仕掛け――ナッジとは

2            人を動かす4つのポイント――EAST理論

3            薬剤師によるナッジの実践

 

第3章 行動経済学から学ぶ日常業務のテクニック

1            単なる不注意ではない? 調剤過誤を防ぐテクニック

2            服薬指導が上達するテクニック①――信頼関係を築くためのコミュニケーション

3            服薬指導が上達するテクニック②――患者の行動を促すための伝え方

4            OTC医薬品の販売が上達するテクニック

5            患者からのクレームにうまく対応するテクニック

6            患者の満足度を高めるテクニック

7            薬剤師が常に高いパフォーマンスを発揮するためのテクニック

8            後輩薬剤師の育成が上達するテクニック

9            実務実習の指導に役立つテクニック①――指導者のモチベーション維持

10          実務実習の指導に役立つテクニック②――実習生を前向きにさせる声かけ

11          薬剤師の職場環境を活性化するテクニック

12          多職種連携を円滑にするテクニック

序文

序文

 

 ここ数年,行動経済学が大きな注目を集めています。“経済学”と聞くと難しく感じる方もいるかと思いますが,行動経済学は,「人がどのように意思決定を行っているか」を解き明かす,とても身近な学問です。薬剤師が患者に「大切なお薬なので,毎日きちんと飲んでくださいね」と伝えてもなかなか服薬が続かないことがあるように,人は必ずしも正しい判断(合理的な判断)をするわけではなく,さまざまな心理的要因や環境の影響を受けながら,選択や判断を行っています。行動経済学は,そうした人の意思決定のクセを明らかにして,行動をよりよい方向へ導くためのヒントを与えてくれるのです。

 例えば,マーケティングの分野では,行動経済学の知見がおおいに活用され,消費者の選択や行動を左右する有用なツールとして実践的に使われています。消費者は自分で意思決定をしているようでいて,実際には誘導されていることが多いのです。行動経済学を活用する動きは徐々に広まり,かつては一部の専門家の研究領域と考えられていた学問が,いまでは多くの人にとって“知っておきたい教養”と認識されています。

 一方で,医療現場,とりわけ薬剤師の実践領域において,行動経済学を体系的に活用しようとする試みはこれまで決して多くはありませんでした。医療現場では,医療従事者は「患者は治癒に向けて正しい判断や最適な選択をしてくれるもの」と過度な期待を寄せがちです。しかし,実際には服薬アドヒアランスの低下や生活習慣の改善の難しさなどにみられるように,必ずしも理屈通りに行動してくれるわけではありません。

 患者の意思決定を支援する立場にある薬剤師にとって,人の意思決定のクセを理解することは大きな意味をもちます。患者がよりよい選択を行えるように環境を整え,行動を後押しする技術は,これからの,特にAIの使用が当たり前である時代に,薬剤師にとって重要な専門性の一つになるでしょう。その想いで行った昭和薬科大学での講義で,受講生の関心と反響の高さから,薬剤師の卵も求めている知見であると確信し,薬剤師の視点で行動経済学の体系化を行うことの意義に気づくことができ,本書を執筆するきっかけとなりました。

 本書は,行動経済学の基本的な考え方を,例を挙げながらわかりやすく紹介するとともに,その知見を薬剤師業務の実践において応用することを試みた先駆的な一冊です。経験談のみではなく,学術論文などによって裏打ちされた理論も添えてあります。しかし,本書の内容は決して薬剤師だけのものではありません。登場人物を置き換えてもらえれば,皆さまが遭遇するさまざまな場面に適応することができます。日々の業務に役立つだけでなく,人の行動のクセへの深い理解によって,他者を支える力が増し,自分の行動をよりよく整える力がつくことが期待できます。

 本書が,行動経済学という学問に触れるきっかけになってくれることを願っています。