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薬剤師のための臨床推論
意図して病歴・バイタル・身体所見をとりにいくために
商品コード |
45017 |
編著 |
編著:川口 崇、岸田 直樹
執筆:入江 聰五郎、北原 加奈之、添田 博、高橋 良
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判型 |
A5判 |
発行日 |
2013年9月 |
ページ |
300頁 |
定価 |
¥3,300(税込) |
在庫 |
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内容
●病棟・薬局で活躍するために必須の薬剤師力=臨床推論!
患者が訴える主訴や症状、検査値は、その患者の体内で何が起こっているかを教えてくれる有力な手がかりです。新たな疾患の発症、基礎疾患の悪化、薬による副作用など、患者が抱える問題は数知れません。その原因を突き止めるための考え方、思考プロセスが臨床推論です。本書は、具体的な症例をもとに、経験豊富な医師と薬剤師が、患者の病態を正しく評価し、問題点を見極めるためのポイントをわかりやすく、豊富なイラストとともに解説しています。
青木眞先生(感染症コンサルタント),北田光一先生(日本病院薬剤師会会長)推薦。
病棟や薬局店頭で患者さんと話をする薬剤師には必携の1冊です!
【特別掲載】
本書のもとになった『月刊薬事』の連載、「薬剤師と医師の共通言語――臨床推論から学ぶ“薬剤師力”」の初回(2012年1月号)に行われた座談会の記事をご覧になれます。本書の著者6名が臨床推論について存分に語っていますので、お見逃しなく!→ <<座談会の記事はこちら>>
※訂正情報
・2013年10月26日
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目次
Step 1 臨床推論の基本
A そもそも臨床推論とは?
B 身体所見のとらえ方
C バイタルサインの読み方
D 薬剤師は臨床推論をどう活かす?
Step 2 外来診察・薬局で臨床推論を学ぶ
ケース① 頭痛でドラッグストアに来店した50歳男性
ケース② 診療時間ギリギリに駆けこんできた29歳女性
ケース③ 抗生物質を処方してほしいと言って来院した28歳女性
ケース④ 入浴中の腹痛と嘔吐で家族に連れられて来院した69歳男性
ケース⑤ 薬局にて咳止めを希望する外来化学療法通院中の58歳女性
Step 3 病棟で臨床推論を活かす
ケース⑥ 内視鏡検査直前に意識障害を呈した50歳台女性
ケース⑦ 外泊後に発熱と咽頭痛を認めた整形外科手術後の16歳男性
ケース⑧ 腹痛を訴え嘔吐した喘息入院中の35歳男性
ケース⑨ 吐き気と立ちくらみを呈した関節リウマチの68歳女性
補 講 感度、特異度、尤度ってなに?
ケース⑩ 胃がん術後に発熱・呼吸苦が出現した75歳男性
ケース⑪ 突然の息苦しさを訴えたSLEの45歳女性
Step 4 アドバンス症例で推論力を磨く
ケース⑫ 転倒し腰椎圧迫骨折で入院中に誤嚥性肺炎を合併した70歳女性
ケース⑬ 尿量低下と浮腫を認めた50歳台女性
ケース⑭ めまいで転倒した48歳女性
ケース⑮ 寒気を訴えて震えはじめた糖尿病の62歳女性
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書評
【推薦の言葉】
青木 眞(感染症コンサルタント)
臨床薬剤師の夜明け
日本の薬剤師がベッドサイドで医師・看護師とともに薬剤のプロとしてチーム医療の一端を担う時代が来た。しかしながら多くの薬剤師にとって,これが簡単ではない。できない。その理由は,日本の薬剤師には臨床現場で患者に何が起きているかを判断する能力が十分にないためである。この能力とは具体的には,病態生理を理解する能力,そしてそれを医師・看護師と共有する能力である。どうして医師は肺炎と診断したのか? どうして看護師は肺炎が良くなっているとわかったのか? この疑問に答えようとするのが本書である。
臨床訓練に近道はない
1980年代,筆者の米国におけるインターン生活の朝は早かった。朝6時には受け持ち患者を診察し,必要な検査データを集めて教授回診に備える。隣で同様に必死に回診に備えるS君も筆者と同期のインターンである。ただ彼が他のインターンと異なるのは,彼が昨日までは薬学部の教授であったことだ。昨日まで優秀な薬学教授であった彼も臨床訓練の一丁目一番地であるインターンを飛び越えることはできない。日々のベッドサイドにおける悪戦苦闘を飛び越えた臨床訓練は存在しないか無益だから……。
医師を伴走者として
臨床推論というと難しく聞こえるが,要はいかに患者情報を病歴,身体所見,検査データから抽出し,それに基づき病態生理を予測,鑑別診断を構築するか…という話である。極めて単純明快,そして永遠の課題でもある。これを医師,看護師,薬剤師が協同して行うのがチーム医療である。
本書をすらすらと読める薬剤師は少ないと思う。しかし,この本が紹介する“臨床推論”の訓練を毎日,現場で愚直に続ける以外にこれをマスターする方法はない。幸い臨床推論については医師が一歩先を行っている。彼らを伴走者として本書の「思考が見える化シート」を毎日埋めるのがベストの訓練になるに違いない。志の高い優れた若手医師・薬剤師の共同作品として生み出された本書が多くの読者を得ることを願っています。
【推薦の言葉】
北田光一(一般社団法人 日本病院薬剤師会 会長)
医療技術の進展とともに使用・管理が複雑な医薬品が増大し,薬物療法の質の向上および医療安全の確保のためにチーム医療の推進が不可欠となっている。そのなかで,薬剤師は病棟薬剤業務と薬剤管理指導を両輪とした病棟活動を介して薬剤の専門家として主体的に薬物療法に参加することが求められているが,薬剤師がチーム医療の一員として貢献するためには,常に薬学諸学を基盤とした独自の視点を堅持しつつ,新たなスキルを身につけることが重要である。
患者が示すさまざまな症状に対して,原因・結果を予測する能力が薬剤師に求められている。薬歴,検査値,バイタルサイン,患者の訴えといった患者情報を分析・解釈し,その意味するところを理解して,患者情報と医薬品情報の両面から問題の解決のための方策を考えることは的確な薬学的管理やケアの実践に不可欠な過程である。本書は,『月刊薬事』に連載された「薬剤師と医師の共通言語;臨床推論から学ぶ“薬剤師力”」を中心としてまとめられたものである。臨床推論は患者理解を深めるためのものの一つであり,医療者間のコミュニケーションツールであるともいえる。本来,診断するめためのツールの一部とされているが,薬剤師にとっては,臨床経過,患者の訴えから重要な情報を収集するためのスキルと考えることができる。また,臨床推論は患者の症状・訴えが薬剤起因性の副作用によるものか何らかの疾患によるものかを識別するうえで有効であると考えられる。
本書では,具体的な臨床場面ごとに患者の症状や病態から何をどのように考えるかが理解できるようわかりやすく解説されている。薬剤師に身につけてほしいスキルであり,より精度の高い病棟業務を展開するために是非とも一読いただき,活用いただきたい書籍である。
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序文
――新人の病棟薬剤師A君は,チーム医療のなかに,医療の職種間におけるヒエラルキーが少なからず存在することを知る。それは,初めての病棟で無力感にさいなまれる自分とは違い,現場で強い意思決定力と責任をもって働いている医師,そして経験豊かな自分より若い看護師たちを見てしまったからなのか。もしかしたら,こうしたヒエラルキーは,A君自身のなかで必要以上に大きく創り出されたものなのかもしれない。ある日A君は,ベッドサイドで患者さんの訴えを聴く。明らかに医師に伝えなくてはいけなそうな症状だった。でも,ただ伝えるだけの伝書鳩のようになりたくない。もっと有用な情報を拾わなければならないのに,それができない,わからない。医師にも,患者にも,何を話していいのかわからなかった。それでも自分なりに入念に調べ,話す順番を考え,副作用じゃないのかと,医師に自分の意見を伝える。それはどこか駆け引き的な要素のある交渉(ネゴシエーション)のよう。本当にA君がしたいのは,医師に対するネゴシエーションではなく,ともに悩み,ともに考える,医師とのコラボレーション(協力・協同)なのに――。
就職して1年目の冬,病棟担当になった私は,上述したようにさまざまな「現実」が散りばめられた病棟の空気と対峙していたように思います。病棟薬剤師なら誰でも最初のころ経験するようなエピソードなのかもしれません。ネゴシエーションの枠を超え,コラボレーションへ。そのために必要なのは,患者さんのことでともに悩み,立ち向かっていくためのコミュニケーション能力ではないでしょうか。その1つとして,臨床推論を共通言語にしようというのが本書の試みです。
医師の診断や処方された内容を起点とした,後ろ向きの評価で問題点を指摘するのではなく,患者の訴えを起点とし,臨床推論を共通言語として前向きに問題に取り組んでいくことが,この“ネゴシエーション”と“コラボレーション”の違いなのかもしれません。「患者さんの把握のピントがずれている」,「考えていない」,「聞かないと返ってこない」薬剤師ではなく,患者さんの訴えを聴くことができ,ともに患者さんのために悩むことができる1人の医療者に,今後の薬剤師はなっていくのだと思います。
患者さんの訴えを聴いて,考えることができる1人になるということは,簡単なようでそうはいかないわけですが,A君のようなこれからの薬剤師にはぜひ地道に取り組んでいただきたいです。本書がA君のような薬剤師の助けになることを願っています。幸い,臨床という現場をもつ薬剤師が増えています。その現場こそが,最大の学び舎であることを,多いに活用してください。
2013年6月
川口 崇
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医師からの願い
考える薬剤師に期待すること
“高度な医療の介入”,“多数の問題を抱えた高齢者の加速度をつけた増加”,そのような現代医療において,チーム医療はあたりまえのことになっています。ところが,そこに薬剤師が「いそうでいない」,「輪の中に来てくれそうで呼ばないと来てくれない」ことがあると日々感じます。
医師は薬剤師に対して,評論家のように遠くから後ろ向きに発言するのではなく,患者さんの訴えなど最前線で情報を集める一人になり,その収集した情報から病態を把握し,深い理解をすることで見えてくる患者さんのこれからを,特に治療の側面で時間軸にのって前向きにも話し合える輪に入ってほしいと考えています。現場で何が起こっているか? 薬剤師がその結果だけを教えてもらい遠くで眺めていたいと考えているとは思いません。一緒に情報収集し考えていきたいのでしょうが,そのやり方を知らないのでしょう。
臨床推論とは診断するためだけにあるものではありません。患者さんの病態を理解するため,なぜに医師がそのような診断を下すに至ったか,患者さんが良くなっているのか悪くなっているのか,そのようなことをチームでディスカッションしていく最低限のツールです。これは看護師の世界でもディスカッションされています。よくよく考えたら簡単な話なのです。が,明日からすぐにできるほど簡単なものではないということも知りましょう。体系的に学ぶ場が必要です。
専門科の分野でも同じことが言えます。例えば感染症の世界では抗菌薬適正使用に向けてAntimicrobial stewardship時代に入りました。もはや机上の適正使用,つまり使用許可証といったAntibiotic controlだけで適正使用ができる時代ではありません。薬剤師は,ただ医師に言われるがままに抗菌薬を提示できればいいのではなく,適切に介入すべき状況かを現場に出て臨床推論の知識を活かして患者情報を収集し介入する一員になることが重要です。そしてそのような臨床感染症に精通した薬剤師がAntimicrobial stewardship時代においては,実は最も重要な存在なのです。
互いの専門性を最大限に発揮する,それは当然のことでしょう。それは最低限として,薬剤師が日本ならではのチーム医療の一員として常にその輪に存在し,臨床推論の考えを駆使しながら患者さんの時間軸にのって前向きにも発言する一員になり,全員総力戦となってこれから迎える日本の世界に類を見ない難局に立ち向かい,乗り越えていけることを医師として期待します。
2013年8月
岸田 直樹
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