山本 康太 先生〔KOUTY@薬剤師のすゝめ〕
薬剤師は薬物療法だけを知っていればよいか? 答えは「NO」です。
私たち薬剤師は患者さんがいてこそ成り立つ仕事であり、患者さんのこころの在り方についても学ぶ必要があります。
こちらの著書では、「死を向き合う患者さん(がんを患った患者さん)に対して、どのように接すればよいか?」が、症例ごとに、精神科医の清水先生と悩み多い病院薬剤師の薬丸先生の対話形式で記載されています。
僕自身も、がんを患った患者さんに服薬指導をした際に、「薬の話? それを飲んだら、がんは治るのか?」とか「治療を頑張りましょうって言われても、これ以上何を頑張るのか?」など、対応に難渋するケースに出会ったことがあります。
薬剤師のなかには、「性格が難しい患者さんだから仕方ない、私は薬の説明を十分にしたから悪くない」と思う方もいるかもしれませんが、それだけでは薬剤師としては半人前。
がんを患った患者さんは、気持ちの整理ができていない状態であることが大半であり、気持ちの整理をするには段階をふむ必要があり、そこをサポートできてこそ医療従事者といえるでしょう。
患者さんの気持ちが今どの状態にあるのか? その段階に応じた接し方をすれば、自ずと患者さんとのコミュニケーションも上手くいくはずです。
本書は患者さんとのこころの在り方についてのエッセンスが凝縮された一冊。
僕が病院薬剤師として働き始めた頃にこのような一冊があったなら、どれだけ救われたでしょう。
伊東 俊雅 先生〔東京女子医科大学附属足立医療センター薬剤部長/がん包括診療部緩和ケア室副室長/緩和医療暫定指導薬剤師〕
――私はいつ死ぬのでしょう?
――なぜ私の言ってることをわかってくれないのか?
――こんなくすり、なんの意味ががあるの?
――もう来ないで! あなたの顔なんか見たくない!
薬剤師として患者ケアにあたっている場面で、こんなことを患者さんから言われた経験はありませんか?
病棟や外来で、われわれ薬剤師が患者さんたちの苦悩や不安、「死」に対峙する機会が増えていますが、十分な対応ができないと患者さんたちのためにもならないばかりか、薬剤師自身が自信を失ってしまうことになるかもしれません。われわれは服薬指導や薬剤師外来、お薬相談、在宅訪問などで患者さんやその家族とコミュニケーションをとる機会が、かつてに比べ多くなっています。医師にも看護師にもできない話を薬剤師には吐露する患者さんがいますが、実は多くの「死と向き合う」患者さんたちは、その発信をもって、自身の「生きる」ことを体現しています。こうした患者さんたちからの大切なメッセージを誤認したり、回避、敬遠したりするのではなく、正しく捉えて対応するスキルをもつべきと考えます。
しかしながらこれまで、薬剤師を対象にした、死を意識した患者さんの心の叫びを受け止めるためのテクニックやtipsをまとめた真に理解しやすい書籍はありませんでした。
今回、がん研究会有明病院腫瘍精神科 清水研先生が執筆された、「薬剤師のための 死と向き合う患者のこころのケア」が発刊されました。本書では、薬剤師が直面する、「死」と向き合う患者さんの気持ちの解釈と対応について大変わかりやすく、16の事例をもとに紐解いており、どこから読んでもすぐに臨床応用できる内容です。
本書を推薦いたしますので、ぜひご一読いただき、実践されている薬剤師ケアにさらなる厚みをもたせ、患者さんのQOL向上にご活用ください!
遠藤 一司 先生〔日本臨床腫瘍薬学会(JASPO)顧問〕
服薬指導中に、がん患者さんが「もう死んでしまいたい……」または「まだ死にたくない」と言って泣き出したら、あなたはどのように対応しますか。患者さんが突然怒り出してしまった経験はありませんか。患者さんを前にして、どう答えてよいのか、患者さんにかける言葉もなく、大いに落ち込んだことはありませんか。
がん治療は、新しい薬剤や治療法が次々と開発され生存率が大幅に改善され、がんから生還される患者さんが多くなっています。しかし、がんと告げられたとき、がん治療が始まったとき、またその治療中、がん患者さんの多くはさまざまなストレスや大きな不安を抱えているといわれています。そのような患者さんの心をケアすることは、とても難しいと感じていませんか。
著者は長年、薬剤師とがん患者さんのコミュケーションについて研究・実践してきており、がん患者の精神心理的ケアに関する教育事業も行っています。そのノウハウをもとに本書は書かれており、冒頭にあったような薬剤師が服薬指導などで向き合う場面に、どのように対応するのかが具体的に書かれています。薬剤師が患者との関係をよりよくするためのポイントが満載です。
本書には、16の臨床で遭遇する場面が掲載されています。最初からすべてを読まなくとも、あなたが困っているところから読み進めることで、安心して患者さんとお話ができると思います。また、薬剤師向けに書かれていますが、医師や看護師など多くの医療従事者にもお勧めです。
加賀谷 肇 先生〔湘南医療大学 薬学部 臨床薬剤学研究室 教授〕
著者である清水 研先生、そして遠藤一司先生(元 日本腫瘍薬学会理事長)と私(元 日本緩和医療薬学会代表理事)の鼎談「がん患者のこころを知る」:月刊薬事(Vol.60 No.4、2018年3月号)でご一緒してから5年が過ぎました。その鼎談でも、がん医療においてこれから薬剤師がもっと踏み込まなければいけないのが、「患者のこころのケア」ということを清水先生がお話しされていたのを鮮明に記憶しております。
本書は、薬丸君という600床の病院に勤務する10年目薬剤師が、緩和ケアチームの精神科医清水先生との会話を通して患者のこころのケアを会得していくプロセス、ヘルスプロフェッショナルとして成長していく様子を理解できます。
病院で勤務する薬剤師でも、教材となるような症例には簡単に出会えないし、薬局勤務薬剤師でも、患者のこころまで踏み込むことは難しいと思います。本書は、擬似症例として読むのではなく、読者自身が薬丸薬剤師になり、役者が台本を読み込みその役になりきるように臨床体験ができます。
ポイントの囲いや、アンダーラインが随所に施してあり、緩和医療を理解するうえで一番難しい患者のこころのケアに一歩踏み込む力になると思います。16のCaseが出てきますが、読み進めるうちに腑に落ちる処をいくつも発見されると思います。死と向き合う患者を担当する薬剤師として、「心が決まっていく」ことのためにも是非一読を勧めます。
私が若い頃、元 日本病院薬剤師会 会長の全田 浩先生から言われた言葉を思い出します。
――患者とは心に串が刺さった者と書く、医療者とは心に刺さった串を抜いて差し上げる者をいう。
佐野 元彦 先生〔星薬科大学 実務教育研究部門 教授〕
本書は、薬剤師が日々の業務のなかで、死を避けられない患者やそのご家族と対峙したときに、どのようなサポートをすべきかを詳しく解説しています。死に向かう患者を前にして多くの苦悩や失敗体験を長年経験してきた精神科医の著者だからこそのエッセンスがふんだんに盛り込まれています。また、薬剤師が患者に対して提供できる心理的なケアの重要性や、患者の心の支えとなることができる薬剤師の存在が社会的にも大切であることを力説しています。
本書のなかでも特に印象的だったのは、著者が実際に経験したケーススタディです。薬剤師が直面した死にゆく患者や寄り添う家族、そして大切な人を亡くした遺族との接し方が、非常に具体的かつ実践的なアドバイスとして提示されているため、入院や外来の場で実際の患者やご家族に接する薬剤師にとっては非常に参考になる教本だと思います。
患者のストレスからしなやかに回復する力(レジリエンス)を患者と共に信じて、治らない疾患を抱える患者のそばでゆっくりと寄り添い見守ること(Being)の大切さを、あらためて認識する一冊です。医療従事者に限らず、一般の読者にも会話形式でわかりやすく書かれているため、医療従事者以外の方々にもお勧めできます。きっと、目から鱗の一冊となると思われます。
重い病気を抱える患者や、それを支えるご家族への関わり方でお悩みの方は、ぜひ一度手に取ってみてください。
田上 恵太 先生〔やまと在宅診療所登米/東北大学大学院 医学系研究科 緩和医療学分野〕
今から10年前、国立がん研究センター中央病院の緩和医療科レジデントであった私は、清水研先生のもとでサイコオンコロジーを学ぶ機会に恵まれました。ある日、清水先生に呼び出され、「あなたの自己効力感の高さは他の医療者、ひいては患者を傷つけるかもしれない」という指摘を受けたことがあります。私は情熱をもって、全力で患者さんのつらさに対処しようとしていましたが、「あなたがいなくても、この患者さんは自己回復の力を持っています。また、あなた以外でも幸せにすることができます」との言葉に、私は深い悩みに陥りました。
医療者として、困難を抱える患者さんを救いたいと思うのは自然なことでしょう。しかし、その熱意や責任感が患者さんの心の方向と一致しないとき、患者さんは心を閉ざし、医療者は葛藤することになります。本書では、清水先生と正義感に燃える&迷える薬剤師を中心に、心に傷を抱えながらも自己の価値観と向き合う患者さん、治療を担う医師たち、そしてサポーティブなスタンスの看護師など、多様なキャラクターが活き活きと描かれています。そしてユーモラスな描写には、読者の想像力がたとえ豊かではなくてもその場にいるかのような臨場感があり、コミュニケーションの課題とそれを乗り越える道筋が描かれています。本書は「薬剤師のための」とあるものの、看護師や医師にも大いに参考になることは間違いありません。コミュニケーションスキル、患者さんや医療者の心の向きの変化やメタ認知などの要素がふんだんに盛り込まれています。
そして本書は、ただ実践的な知識やスキルを教えるだけではありません。医療チームのメンバーが互いに支え合い、患者さんが自己と向き合う意義や回復の力(レジリエンス)を信じ見守ること、さらに困難を経験した後の成長力(心的外傷後成長)が人間に備わっている、という大切なメッセージを伝えようとしています。10年前、私が受けた衝撃は数週間の深い悩みをもたらしましたが、患者さんの心の動きや時間の意味を理解しようとする大きなきっかけとなり、私の自己効力感が、他のメンバーからの支援を妨げ、患者さんにとっても重荷になっていることに気づくことができました。今もまだ、まだまだですが、患者さんの回復を待つことやチームメンバーを信頼することができ、自分以上に適切なアプローチをしてくれると考えられるようになりました。
「自己を保つ」ためにケアを提供していませんか? 熱心な医療者ほど陥りやすい、そして患者さんにとって野暮なサポートになってしまうこともあるかもしれません。タイトルの「薬剤師のための」は不要ではないかと思えるほど、生命を脅かす病を抱える患者さんと関わるすべての人々が読む価値があると、私は心から感じています。