神谷 浩平 先生(MY wells地域ケア工房 代表理事)
非がん疾患を支える緩和ケア 〜より良く治療し、共に歩むケアへ〜
「これからの緩和ケアにおいて重要な変化は何だろうか?」
忙しい臨床業務に日々追われる身には、少々荷が重い問いかけである。しかし、その問いに爽快に答えるような良書が改訂・出版された。
現代の緩和ケアは治療技術のめざましい進歩と同時に、様々な価値観や環境の変化のなかで、多様な広がりを見せつつある。一つは従来のがん終末期・症状緩和の偏重から、がん診断早期からの緩和ケア、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)、複雑な問題や葛藤への支援、倫理コンサルテーションなど、「より包括的な質の高い診療プロセス」を重視する変化である。もう一つは多様な非がん疾患、急性/慢性期、療養の場所を問わず提供される緩和ケアのニーズ、すなわち「対象と場の拡大」である。
これらの分野では、各疾患の治療介入や療養と並行して提供される緩和ケアが自然であり、その担い手は「緩和ケアの基本を学んだ医療従事者」である。しかしそのためには、それぞれが自らの専門フィールドをより充実させるという意味で、緩和ケアを学ぶ動機付けと、具体的かつ適切な指針が必要ではないだろうか。
本書はそのようなニーズに応える。内容はわかりやすく、代表的疾患の病の経過、適切な症状評価や薬物/非薬物治療、コミュニケーションや対話の例、医療者自身のケアにも及ぶ。循環器、呼吸器、肝疾患、腎疾患、神経難病、認知症、プライマリケアを専門にする医師や多職種スタッフ、そして診療をさらに深めたい緩和医療の専門家にもぜひ熟読をお勧めしたい。
それは、大きな時代の流れである。本書を手に取った皆さんの現場と周囲から「非がん疾患と共に歩むすべての人」を最後まで支える基本緩和ケアの潮流が生まれ、地域に普及することを願っている。
柏木 秀行 先生(飯塚病院 連携医療・緩和ケア科 部長)
具体的であることに、とことんこだわった、非がん患者の緩和ケアの実践本がさらにパワーアップされた。これが本書の第2版に対する率直な感想である。「これからはじめる非がん患者の緩和ケア」は初版で既に完成度が高く、第2版の出版の報は意外に感じられた。「いや、そんな数年で大きくアップデートされるような分野じゃないし」という思いが根底にあるからだ。そんな懐疑的な気持ちで手にとった第2版だが、第1版を読んだ読者にも十分に勧められるものになっており、執筆者たちの思いと工夫が散りばめられた出来上がりとなっている。
第2版では、各疾患に対してガイドラインの内容がアップデートされ、臨床に役立つコラムが増えたのも、非がん患者の緩和ケアに対する実践者として好印象だ。加えて、本書の特徴でもあった疾患ごとのソーシャルサポートの延長として、退院支援のポイントが明記されたことは、本書の活用の幅を抜群に広げている。第1版に続き、具体的なコミュニケーションを例示いただいたことで、本書の知識をもとに実践する光景が目に浮かぶであろう。
本書の具体的な活用方法として、非がん患者の緩和ケアに取り組む医師はもちろん、様々な職種で読み合い、議論することを提案したい。緩和ケアを必要とする代表的な非がん疾患について、医学的側面だけでなくコミュニケーションや社会保障制度、そして患者・家族側から見た光景など、様々な論点を実践的に論じた本書であるからこそ、チーム医療の中心に添えてもらいたい本である。
西 智弘 先生(川崎市立井田病院 腫瘍内科 部長)
「これで良いのかな」と悩む臨床家の背中を押してくれる本
先日、上梓された『非がん患者の緩和ケア』。僕ら、がん患者の緩和ケアばかりに取り組んできた臨床家にとっては、まさに日々の迷いに対し「背中を押してくれる」良書だと思う。
日本国内において、「緩和ケア」といえば「がん」を指すというのは、少なくとも僕がこの道に入ってからの約10年間ではほぼ常識のようなものだった。緩和ケアの教科書に書かれている内容も、ほぼがん患者に関することばかり。しかし一方で、緩和ケアチームで病棟を回っていると、そこには心不全や腎不全、呼吸器疾患や認知症など、ありとあらゆる疾患の「終末期」の方々がいた。しかも、その多くは適切な医療は施されていても、「苦痛の緩和」はされていない場合が少なくなく、何よりも「誰も自分の苦しみと向き合ってくれない」孤独に苦しんでいた。
僕らが、がん患者に対する知識や経験を踏まえてあれやこれやと関わるようになると、その患者たちは時に涙を流していた。しかし、それを感動のエピソードにするべきではなかった。僕らはずっと「これで良いのだろうか」と葛藤と戦いながら、これまで非がん患者の緩和ケアに取り組まざるを得なかったのである。
そういった状況のなかで出版されたこの本は、僕らの「これで良いのだろうか」という不安を一瞬で吹き飛ばしてくれる。各疾患からくる様々な症状の病態生理や、それらへの具体的対処法、さらにはACPに関する項目まであり、どうやって患者・家族とコミュニケーションをとっていくべきかまでをも知ることができる。緩和ケアを専門とする医療者はもちろんのこと、各科を専門とする方々にも、ぜひ一冊携えていてほしい本である。
林 ゑり子 先生(横浜市立大学 医学部看護学科 助教)
本書は、まさに、緩和医療を届けたいと願う医療従事者が求めていた書籍だと感じました。
わが国は、高齢化率が年々上昇し、約30%となり、少子高齢多死社会にあります。私は、がん看護専門看護師として、病院・在宅療養・施設等においてがん患者を中心にがん患者の抱える痛み、食欲不振、倦怠感等の身体的苦痛症状、さらに、心理社会的な面の苦悩に対するケアに取り組んでいます。がん看護専門看護師は、がん患者の看護の専門家ではありますが、がん患者における緩和ケアの実践がきっかけで、病院や地域のなかで療養される、心不全・慢性腎臓病・慢性閉塞性肺疾患(COPD)・神経難病など、がん以外の慢性疾患の患者の身体的苦痛をはじめ、全人的苦悩の緩和ケアに関わることが多いです。病院・在宅に関わる医師、研修医の先生、薬剤師、栄養士、リハビリ、MSWなど、どの職種においても、がん患者に限らず、非がん患者、慢性疾患患者の緩和ケアを実践する時代になったといえます。
本書は、心不全・慢性腎臓病・慢性閉塞性肺疾患(COPD)・慢性腎臓病(CKD)・肝硬変・認知症・神経難病など、多くの医療者が手探りで緩和ケアをしている対象を中心に記述されています。本書を見たとき、あまり情報のない、腎不全、肝不全の患者の緩和ケアのナビゲーションを知ることができました。病気の説明や治療、症状緩和がわかりやすく、エビデンスのある内容の記載を読み、すぐに実践できる工夫がされていました。重要な箇所を太文字で記載されている部分についても、時間に制限があるときにポイントが押さえられ、素晴らしい実践向きの書籍だと感じました。また、慢性疾患患者のアドバンス・ケア・プラニング(ACP)について、各疾患別に会話式で記載してあり、これまでにない具体的な関わりがイメージできます。
コラムも、関心深い話題の内容ばかりで、初めて知る内容もあり、がん患者以外の緩和ケアを勉強したい方に最適な本だと思います。最初に本を見たとき、見たままに、色合いやデザインまでも、優しさを感じ、編集者の思いが伝わってきました。
本書を通じて、身近な非がん患者への緩和ケアに役立つことは間違いないです。本書の編集者の松田先生、山口先生と相談、会話しているような感覚で活用し、一人でも多くの慢性疾患患者が安心できる医療を整えていきましょう。